ゲーム業界におけるメディアミックスとは?成功事例と戦略・注意点を徹底解説
2025年6月25日
ゲーム業界ではゲームのマーケティング戦略の一環として、「メディアミックス」が行われることが少なくありません。しかし、「メディアミックス」という手法の正確な意味やメリット、注意点などを知らないと、思うように成果が出ないこともあり得ます。
そこでこのコラムでは、メディアミックスの基本的事項を解説し、具体的な成功例も紹介します。
メディアミックスとは
メディアミックスとは、特定のコンテンツを多くのメディアで展開することで、コンテンツの認知度を上げ、得られる利益を最大化する方法です。たとえば、ゲーム発のコンテンツをアニメや漫画などでも展開することで、相乗効果や補完効果が得られます。
クロスメディア・トランスメディアとの違い
メディアミックス、クロスメディア、トランスメディアは意図的に複数のメディアを使って目的を達成するという点で共通しています。
メディアミックスは複数のメディアでコンテンツ自体の認知度を上げることを目的とするため、ほかのメディアへの移動の訴求は(行うとしても)主ではありません。一方クロスメディアは、特定のメディアを見た人を別のメディアに移動させることを目的とします。たとえばテレビCMで「続きはWebで」とWebサイトへの移動を訴求するのがクロスメディアのわかりやすい例です。
トランスメディアは、複数のメディアでそれぞれ断片的にストーリーを伝達する手法です。たとえばテレビ放送と映画で異なる内容を伝えつつ、最終的にはつながっているという手法です。
ゲーム業界でメディアミックスが重要視される理由
CESA(一般社団法人コンピューターエンターテインメント協会)の「CESA ゲーム産業レポート2024」によれば、日本のゲーム人口は5,553万人も存在するとされています。日本の人口が約1億2,380万人(人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)|総務省統計局)ですから、ゲームユーザーは日本の人口の約45%を占めることがわかります。
ただし、上記はモバイルゲーム、家庭用ゲーム、PCゲームのユーザー全てに、さらに潜在的ゲームユーザーを加えた数値であり、個別に見るとより小さい数値となります。
ゲーム開発費は年々高騰していますから、ゲーム単体の利益だけでなくIPとして育成し多方面で利益を上げる必要があります。そこで重要なのがメディアミックスによる認知度の向上です。
たとえば日本で「FINAL FANTASY」シリーズは広く知られていますが、具体的なキャラ名まで覚えている人は少ないかもしれません。一方「ポケモン」については、ゲームをプレイしなくても多くの日本人がピカチュウを知っています。
NR(日本リサーチセンター)が2024年に発表した「第11回 NRC全国キャラクター調査」によれば、日本全国の15~79歳に行った認知度調査で、「ポケモン」は9割に達している一方、「FINAL FANTASY」は5割程度にとどまっています。
前述したように日本のゲームユーザーは約45%ですが、ポケモンの認知度はおよそ2倍にあたるため、「ゲーム」だけで認識されているわけではないことは明らかです。もちろん、ジャンルや世界観、ターゲットも異なるため、「FINAL FANTASY」シリーズと「ポケモン」をすべて同列で語れるわけではありません。しかし「ポケモン」の認知度が高いのは、アニメや漫画、文具や食品などで露出が多く、メディアミックス戦術の成功によるのは疑いようがない事実です。
メディアミックスのメリット
この項目では、メディアミックスのメリット3点を紹介します。次項の「メディアミックスの注意点」とあわせてご確認ください。
認知拡大につながる
複数のメディアに露出することによって、コンテンツの認知度を高めることができます。これは、露出数自体が増えることにも影響しますが、年齢や好みが異なる層にコンテンツの情報が届くことも関係しています。
売上の最大化につながる
メディアミックスで認知度が上がれば、売上や利益の相乗効果が期待できます。たとえばゲーム発のタイトルがアニメ化されれば、アニメを見た人が「ゲームをプレイしてみよう」と思う機会が増えるからです。
世界観の多層展開ができる
メディアミックスの際には、媒体が変わることで必ず表現方法も異なるため、コンテンツの世界観を深めたり多層化したりできます。例えば漫画原作であれば基本的に絵と文字情報で話が進みますが、ゲーム化されれば音声や音楽、動作が付与されて世界観を補強できます。
また、フォーカスするキャラクターや陣営を意識的に変えれば、コンテンツがもつ世界観を広げることも可能です。ただし世界観を壊してしまうと原作ファンが乗れず、メディアミックスのメリットを減らしてしまう可能性があるので注意が必要です。
※これらの注意点は次項で細かく解説します。
メディアミックスの注意点
メディアミックスは実施すればすべて成功するわけではないので、ここに記載する注意点も頭に入れておきましょう。
コストや工数がかかる
メディアミックスを行うには、コストや人的リソースが必要です。必要な出費や工数を惜しむと、作品の品質が担保できなかったり、世界観の統一などができずむしろファンが離れたりすることも考えられるからです。
しかし、資金やマンパワーを無尽蔵にかけられるゲーム会社はありません。そのため、かけたコストに見合う利益が得られるよう、費用対効果をしっかり検討するようおすすめします。
世界観とのマッチなどを重視しなければブランド自体の損失やファン減少につながる
当コラムの「メディアミックスのメリット」の項目で、メディアミックスが世界観の多層展開に適していることを書きました。しかし、原作の世界観をしっかり押さえていないと、むしろブランドに傷をつけることにもなり得ます。
SNSなどで世界観の破綻を指摘・流布されると、さほど違和感を覚えていなかった人も離れてしまうリスクもあるため、原作を尊重することや、世界観を壊さないよう注意することが重要です。
メディアミックスの展開手法と戦略
この項目ではメディアミックスの展開方法4種類を解説し、各方法で成功した具体例を紹介します。
パターン①:ゲーム発・他メディア展開
このコラムはゲームプレイヤーやゲーム開発者に向けたものなので、まずマーケティング戦略としてメディアミックスを行う、ゲーム発のパターンを解説します。
ゲームの内容にもよりますが、ゲーム関連情報には、平均的に若年層がアクセスしやすい特徴をもっています。これを踏まえつつ、同様に若い世代に認知を広げたいのであればデジタルメディアが有効です。一方で高い年齢層も巻き込みたいのであれば、テレビや雑誌などへの露出も検討すべきでしょう。
本パターンの成功事例
「ポケモン」はゲームの話に限定せず、日本のメディアミックスの成功例として高い確率で紹介されます。「ポケモン」ではゲーム発のタイトルで、アニメや漫画、映画やグッズ販売など多角的なメディアミックス戦略が実施されました。その際、各コンテンツのクオリティアップやブランド拡大、マーケティングなど多数の工夫が行われたことも成功の要因とされています。
また、「ウマ娘プリティーダービー」もゲーム発のタイトルでメディアミックスに成功した好例です。ただし、「ウマ娘プリティーダービー」は、実はゲームとアニメが同時期にスタートする予定だったそうですが、ゲームの開発が遅れアニメが先行することになりました。その結果アニメで定着したファンがゲームにも流れ、相乗効果が発揮されてビッグヒットに至っています。
パターン②:漫画発・ゲーム及び他メディア展開への展開
漫画原作が存在して、ゲームやアニメのメディアミックスが行われる例も多数あります。漫画で人気がある作品なら話題になりやすく、ある程度の成功が見込めます。
その一方で、漫画には声がないので、「声優や俳優がイメージと合わない」といった理由で不人気になることもあるので注意が必要です。
本パターンの成功事例
漫画からメディアミックスが成功した例としては、「鬼滅の刃」や「東京卍リベンジャーズ」などが有名です。
「鬼滅の刃」は週刊少年ジャンプでの連載だけでも大ヒットを遂げていますが、メディアミックスでも成功を収めています。週刊少年ジャンプと言えばメガヒット連発のイメージが強いかもしれませんが、リアルの雑誌が売れない時流の影響を受けていないわけではありません。そんな中で「鬼滅の刃」は電子版や小説など、出版関係のメディアミックスで成功を収めていますし、さらにアニメ化や映画化で幅広い年齢層のファンを獲得、メディアミックスの成功例となっています。
「東京卍リベンジャーズ」は週刊少年マガジンでの連載ですでに大きな人気を獲得していますが、アニメ化によって書籍の売上も大幅にアップしています。さらにSNSでの発信に力が入れられたこともあり、実写映画にも多くの人が足を運ぶ結果を得ました。
パターン②:アニメ発・ゲーム及び他メディア展開への展開
アニメはストーリーの面白さやキャラクターの魅力が重要な点では漫画や小説と同様ですが、最初から声や音楽などが盛り込まれていることを特徴とします。そのため、ゲーム化やグッズ販売がしやすいですし、スピンオフ作品も作りやすいなど、ブランド強化を目指すメディアミックスがおすすめです。
本パターンの成功事例
「新世紀エヴァンゲリオン」はアニメ発で成功したメディアミックスの好例です。魅力的なキャラクターと無限に深掘りできるストーリー性でコアファンの育成に成功したことで、漫画化や映画化も好評でした。これらの基盤があったことで、グッズ販売などメディアミックスによるブランド力アップに成功しています。
パターン④:マルチメディア同時開発
最初からマルチメディアで発信する手法は、同時期に狙って露出を増やすことができる一方、原作の人気を踏まえたメディアミックスよりリスクが大きな選択肢です。また、初期段階で大きな予算がかかる点にも注意が必要です。とはいえ、実際の成功例もあるので以下で紹介します。
本パターンの成功事例
複数メディア同時発信の成功例としては「Tokyo 7th シスターズ」が有名です。この作品は、企画段階からゲームや漫画、小説やイベント、グッズ販売などのメディアミックスが盛り込まれていました。この手法は予算がかかる割にヒットの見込みが立てにくい難点があります。しかし「Tokyo 7th シスターズ」では、総監督がメディアミックス全体をプロデュースしたことで各メディアでのブレが起こらず、強固なファンの獲得に成功しています。
ゲーム企業がメディアミックスを成功させるためのポイント
ここからは、ゲーム会社がメディアミックスを行ううえで、知っておくと役立つポイントを解説します。
初期段階から世界観と展開メディアを設計する
メディアミックスを展開する際、世界観の不一致や解釈違いがあると、相乗効果が起きにくいうえに批判の対象にもなります。そのため、特に先行作品がある場合、まず原作の世界観をしっかり踏まえることが重要です。
メディアごとの役割を明確に設定する
各メディアには利用年齢層の違いや、得意、不得意があります。そのため、どのメディアに何を期待するのかを明確に設定しましょう。
たとえばテレビメディアはいまだ認知向上に大きな力をもっていますが、若年層は離れつつあります。一方、SNSは拡散力や情報伝達の速さで優れていますが、テレビメディアよりブランドの確立は難しいと言われています。このような特徴を踏まえることがメディアミックス成功のカギとなるので、事前の分析が重要です。
SNS・イベント連携を活用した共創戦略を視野に入れる
ゲーム発のタイトルでアニメ化などが行われる例は多数ありますが、その際重要なのはSNSによる情報拡散やイベントの開催などで先行コンテンツのファンを盛り上げる戦略です。せっかくのメディアミックスを生かすには、相乗効果を最大化することが欠かせません。
各メディア担当者間の連携体制
「ポケモン」メディアミックスの大成功例として知られる理由のひとつに、コンテンツの質を下げないことやブランドの拡大に人的リソースを大きく投入したことがあげられます。このため、異なるメディアでもキャラクターのデザインやストーリー性が一貫していますし、クオリティが低いコンテンツの発生防止もできています。
データ分析によるPDCA運用
メディアミックスの成果を最大化するには、企画や戦略、実行、分析、改善のサイクルが欠かせません。そのため、企画段階から認知度やコンバージョン率などの目標設定とデータ収集方法などを確立しておきましょう。
まとめ
ゲーム業界のメディアミックスについて、概要やメリット・注意点、手法や成功例などを解説しました。メディアミックスはゲームの認知度向上や利益の最大化に役立つので企画されることが多いですが、成功するには多数のポイントがあります。そのため、ぜひこのコラムを参考にして、メディアミックス戦略の成功を勝ち取ってください。