リアルタイムレンダリングとは?ゲーム業界で活きる基礎知識・活用事例・将来性
2025年8月28日
ゲームのグラフィック作成において、「リアルタイムレンダリング」という言葉は重要な意味をもちますが、詳しくは知らない方も多いかと思います。そこでこのコラムでは、ゲーム開発におけるリアルタイムレンダリングについて、基礎知識や活用事例、リアルタイムレンダリングを扱う職種の将来性などを解説します。
リアルタイムレンダリングとは
そもそもレンダリングとは、2Dや3Dで作成されたデータを、画像や映像として描き出す工程です。レンダリングはコンピューターが行う計算作業であり、その手法にはいくつかの種類があります。
リアルタイムレンダリングは、この計算処理をリアルタイムで行い、結果を即座に画面に表示する技術です。
例えば、ユーザーがゲーム内でキャラクターを操作した際や、カメラアングルや光の当たり方が変化した際にも、遅延なく映像が生成されるのがリアルタイムレンダリングの特徴です。
この技術は、高い処理能力を持つGPUによって支えられています。リアルタイムでの映像生成を実現するには、高い処理速度と同時処理の手法、簡略化された計算方法など様々な技術が用いられています。
プリレンダリングとの違い
プリレンダリングは、映像を事前に計算して生成する手法です。この方法には、レンダリングに多くの時間をかけられるため、リアルタイムレンダリングよりも高品質な映像を作成できる利点があります。そのため、映画やアニメーションのCG、ゲームのオープニングムービーなどに用いられます。
一方、リアルタイムレンダリングは、ユーザーの操作に応じてその場で映像を生成する技術です。これにより、プレイヤーはゲームの世界を自由に探索し、リアルタイムで変化する映像を楽しむことが可能です。
リアルタイムレンダリングは、プリレンダリングに比べて処理速度が重視されるため、計算を簡略化することが多くなりますが、近年は技術の進化により、リアルタイムでも非常に高品質な映像が表現できるようになっています。
ゲームグラフィックスとの関係性
リアルタイムレンダリングは、ゲームグラフィックスの中核をなす技術です。プレイヤーの入力に即座に反応し、その場の状況に応じた映像を生成するため、ゲームにおける没入感や相互性を高める上で不可欠です。
この技術の進化は、ゲームの表現力を飛躍的に向上させてきました。高性能なGPUの登場やレンダリングエンジンの発展により、リアルタイムで光の反射や影、水の揺らぎといった複雑な物理現象をリアルに再現できるようになっています。これにより、ゲーム内の世界はより豊かで現実感のあるものとなり、プレイヤーの体験を大きく向上させています。
ゲーム業界で働くエンジニアにとって、リアルタイムレンダリングの知識は、高品質なゲームを開発するために重要な要素といえます。
リアルタイムレンダリングがゲーム開発で採用される理由
ここでは、ゲーム開発にリアルタイムレンダリングが採用される理由を解説します。
リアルタイム性がもたらすプレイヤー体験の向上
リアルタイムレンダリングがゲームで採用される最大の理由は、プレイヤー体験を向上させることにあります。映画やドラマのように完成作品を見る体験とは異なり、ゲームではプレイヤーの操作が反映されるため、操作と実際の映像表示に時間差が生じると、没入感が薄れてゲームを楽しみにくくなります。
例えば、プレイヤーの操作に合わせてキャラクターの影がリアルタイムで変化したり、光源が移動すると光の反射が起きたりすることで、プレイヤーに「自分がその世界に存在している」という感覚を与えることで、インタラクティブ性を高めます。
アニメーション・エフェクトとのスムーズな連携
リアルタイムレンダリングは、ゲーム内のキャラクターアニメーションや各種エフェクトとの連携をスムーズにします。
例えば、キャラクターが魔法を使う際、その動きに合わせてリアルタイムで光のエフェクトやパーティクルを表示可能です。また、キャラクターの表情や動きもリアルタイムで変化するため、プレイヤーの操作やゲーム内のイベントに応じて自然なアニメーションが生成されます。
これにより、ゲームの状況に合わせた多様な表現が可能となり、ゲームの世界がより生き生きとしたものになります。このような連携は、グラフィックだけでなくゲームプレイ自体の魅力を高めるうえでも重要です。
UI・インタラクション設計との相性
リアルタイムレンダリングは、ユーザーインターフェース(UI)やインタラクション設計との親和性も良好です。
ゲーム内のUIは、プレイヤーの行動に応じてリアルタイムに表示や非表示が切り替わったり、アニメーションを表示したりする必要があります。リアルタイムレンダリングは、この動的なUI表示を少ない遅延で実現します。
例えば、メニューを開いたり、アイテムを使用したりする際のボタンのハイライト表示や、画面に表示される情報パネルのアニメーションなどがプレイヤーの操作に対して即時的であれば、ゲームの快適性が上がります。
プリレンダリングでは、UIの動的な変化を事前に全て用意することは困難ですが、リアルタイムレンダリングはプレイヤーの行動に応じてUIを動的に変化させることができます。
リアルタイムレンダリング技術の種類
ここではリアルタイムレンダリングの技術を3種類紹介します。
レイトレーシング
レイトレーシング(Ray Tracing)は、光の物理的な挙動をシミュレートすることで、リアルな映像を生成するレンダリング技術です。カメラから放たれた光線(レイ)が、物体に反射・屈折する様子を追跡し、その結果から色や明るさを計算します。これにより、鏡のような反射や、ガラスの屈折、光の拡散といった複雑な現象をリアルに表現できます。
従来は膨大な計算量が必要なため、プリレンダリングで主に利用されてきましたが、近年はGPUの性能向上により、リアルタイムでのレイトレーシングが可能になりました。特に、ゲーム内でのリアルな影や反射を表現する際に重要な技術となっています。ゲーム開発では、この技術を用いることで、現実と見紛うほどの美しいグラフィックスを実現できます。
スキャンラインレンダリング
スキャンラインレンダリングは、画面を横方向の走査線(スキャンライン)に沿って描画していくレンダリング手法です。この技術は、3Dモデルを2Dの画面に投影し、ピクセル単位で色を塗りつぶすことで映像を生成します。計算処理が比較的軽量であるため、リアルタイムレンダリングの初期から広く利用されてきました。
ゲームでは、主にポリゴンと呼ばれる多角形の集合体で構成されたモデルを描画するために使われます。最新のゲームでも、基本となる描画処理にスキャンラインレンダリングが使われることが多く、その上にシェーダーやポストエフェクトといった様々な技術を組み合わせて、より高品質なグラフィックスを表現しています。この手法は、処理速度が速いため、ゲームのフレームレートを高く保つ上で不可欠な技術です。
トゥーンレンダリング
トゥーンレンダリング(Toon Rendering)は、3Dモデルをアニメーションやイラストのような2D調のグラフィックスで表現する技術です。この手法は、影の階調を滑らかにせず、くっきりとした境界線で表現する「セルルック」と呼ばれる独特の表現が特徴です。
トゥーンレンダリングは、キャラクターの輪郭線を強調したり、影のつき方をシンプルにしたりすることで、手描きのような温かみのある映像を作り出します。これにより、リアルな質感よりも、キャラクター性やアートスタイルを際立たせたいゲームで多用されます。
例えば、アニメ原作のゲームや、独特の世界観を持つインディーゲームなどでよく見られます。計算処理が比較的軽量であるため、リアルタイムでの動作に適しており、多様なゲーム表現を可能にする技術です。
リアルタイムレンダリングの注意点
ここでは、ゲーム開発でリアルタイムレンダリングを扱ううえでの注意点を記載します。
高いマシン性能が必要になる
リアルタイムレンダリングは、高いマシン性能を必要とします。特に複雑な3Dモデルや高解像度のテクスチャ、多数の光源、複雑なシェーディング処理をリアルタイムで行うには、強力なGPUとCPUが不可欠です。
もしマシンの性能が不足していると、処理が遅延してしまい、映像がカクついたり、フレームレートが低下したりする原因になります。これにより、プレイヤーのゲーム体験が損なわれる可能性があります。
ゲーム開発では、ターゲットとするプラットフォーム(PC、家庭用ゲーム機、スマートフォンなど)の性能を考慮し、バランスの取れたグラフィック設計が求められます。性能要件を満たしつつ、最高のグラフィックを実現することが、エンジニアの腕の見せ所です。
描画品質がプリレンダリングに劣る傾向にある
リアルタイムレンダリングは、プリレンダリングより描画品質が劣る傾向にあります。これは、リアルタイム性を優先すると、計算時間が確保できないからです。
例えば、プリレンダリングでは、光の反射や影の計算を何時間もかけて精密に行うことができますが、リアルタイムレンダリングでは、一瞬で結果を出す必要があります。そのため、計算を簡略化する手法が用いられることが多く、これが品質の差につながります。
しかし、近年の技術革新により、レイトレーシングなどの技術がリアルタイムで利用可能になり、その差は縮まりつつあります。ゲームエンジニアは、限られた計算資源の中でいかに高品質なグラフィックを表現するか、という課題に常に取り組んでいます。
アセットの軽量化・最適化の手間がかかる
リアルタイムレンダリングでは、アセット(3Dモデル、テクスチャ、アニメーションなど)の軽量化と最適化が不可欠です。マシンの性能に依存するため、データ量が大きすぎると処理が重くなり、ゲームの動作が不安定になります。そのため、ゲーム開発の工程では、アーティストが作成したアセットをエンジニアがゲームエンジンに組み込む前に、ポリゴン数を減らしたり、テクスチャの解像度を調整したりする作業が必要です。
この最適化作業は、グラフィックの見た目を損なわないように注意深く行う必要があり、手間と時間がかかります。
リアルタイムレンダリングを用いたゲーム開発では、グラフィックのクオリティとパフォーマンスのバランスを取ることが重要であり、この最適化プロセスはゲームの成功を左右する重要な要素の一つです。
リアルタイムレンダリングの活用事例
ここでは、ゲーム業界でのリアルタイムレンダリングの活用事例を3つの視点から解説します。
オンラインゲーム(MMORPG・FPSなど)
オンラインゲームでは、プレイヤー同士が同じ空間でリアルタイムに交流するため、リアルタイムレンダリングが不可欠です。MMORPGやFPSでは、他のプレイヤーや敵の動き、天候の変化、時間帯の移り変わりなどを常に描画する必要があります。
リアルタイムレンダリングは、こうした動的な要素を遅延なく画面に反映させ、プレイヤーの操作に即座に反応するゲームプレイを実現します。これにより、プレイヤーは没入感のあるゲーム体験を楽しめます。
VR/ARゲーム
VR/ARゲームでは、現実世界と仮想世界をリアルタイムで融合させるため、リアルタイムレンダリングが重要になります。
VRゲームでは、プレイヤーの頭の動きに合わせて360度シームレスに映像を生成する必要があり、遅延があると酔いを引き起こす原因になります。
ARゲームでは、スマートフォンのカメラを通して現実の風景にCGを重ねて表示するため、リアルタイムでの映像生成が不可欠です。リアルタイムレンダリングによって、プレイヤーは違和感なく仮想世界を体験でき、高い没入感とインタラクティブ性を実現します。
クラウドレンダリングによるモバイルゲーム上での高品質配信
ユーザーが所有する端末の性能に依存せず、高品質なグラフィックをモバイルゲームで楽しむ技術として、クラウドレンダリングが注目されています。
これは、レンダリング処理をクラウド上の高性能サーバーで行い、その結果を映像ストリーミングとしてユーザーの端末にリアルタイム配信する仕組みです。これにより、ユーザーは低スペックのスマートフォンでも、高品質なゲームをプレイできます。
今後のトレンドとゲーム業界でのキャリアへの活用
リアルタイムレンダリングは、今後のゲーム業界においてますます重要度を増すと考えられます。高性能なGPUの登場により、レイトレーシングなど高品質なレンダリング技術がリアルタイムで利用できるようになるなど、ゲームグラフィックは常に進化を遂げているからです。
また、AIとの融合も進み、AIが背景やキャラクターを自動生成することで、開発効率が向上し、より多様な表現が可能になります。さらに、近年使用が増えているクラウドレンダリングも品質や作業効率アップに貢献するでしょう。
ゲーム業界で働くうえでこれらの技術の理解は必須ですし、スキルとしてリアルタイムレンダリングの最新技術を習得していれば、キャリア形成上の大きな武器になります。
まとめ
リアルタイムレンダリングについて、基本事項やプリレンダリングとの違い、ゲーム業界で多用される理由などをまとめました。
映画などの完成されたものを見るコンテンツとは異なり、ゲームではリアルタイムのインタラクティブ性が重視されます。その要求を実現するためにリアルタイムレンダリングは欠かせない要素であり、ゲーム開発に関わる人なら最低限の知識は必須です。
またリアルタイムレンダリングを直接扱う職種であれば、本コラムに記載した技術を習得して、キャリア形成に活かしてください。