同人ゲームの世界と可能性とは?クリエイターが知っておくべきカルチャー
2025年8月29日

日本では以前から「同人ゲーム」が多数作られており、「東方Project」や「ひぐらしのなく頃に」など、多くの人に愛されるタイトルとして育った例もあります。このコラムでは、まず同人ゲームの定義を明確にしたうえで、作られることが多いジャンルや代表的開発ツール、販売や配布のためのプラットフォームなどを解説します。
同人ゲームとは
ここではまず同人ゲームの定義や作られてきた背景、商業ゲームやインディーゲームとの違いなどを解説します。
同人ゲームの定義と歴史的背景
「同人ゲーム」という言葉には、実は明確な定義はありません。「仕事ではなく趣味で作るのが同人ゲーム」と解説する人もいますが、同人ゲームを同人誌即売会などで売ってその収入を生活にあてている人もいて、その場合職業との差は不明瞭だからです。そのため、ここでは個人や同人サークルが制作するゲームの総称と考えて、以下の記述を進めていきます。
定義が不明瞭なので始まりも明らかではありませんが、同人ゲームは1970年代後半にはすでに存在していました。この時期にはアーケードゲームに刺激された人たちがPCで趣味のゲームを作っていましたし、雑誌の付録やショップの配布品としての流通も見られます。
そして1980年代には、同人ゲームのクリエイターが発掘されて商業作品を作る流れや、雑誌がプログラマを育成する流れができます。さらに、フロッピーディスクが普及したことで手売りが可能となり、同人誌即売会で同人ゲームの販売も始まります。
1990年代には同人ゲームはやや下火になりますが、2000年代以降はインターネット環境の普及で、ダウンロード販売ができるようになったため、同人ゲームからも「東方Project」のような大ヒット作が登場するようになります。
商業ゲームとの違い
同人ゲームと商業ゲームの最も大きな違いは、利益の重視度と組織性、販路、などにあります。
もちろん同人ゲームも赤字続きでは作成が困難になりますが、企業の場合、損失や利益の影響が個人にとどまりません。会社を維持するためには利益が必要ですし、勤める人や家族の生活がかかっていますから、収支にシビアにならざるを得ません。
また、商業ゲームの開発は同人ゲームより組織的に行われますし、平均的に関わる人数も多いです。例えば営業や広報などの直接開発に参加しない人が多数関わります。また、法務や経理なども含めると、クリエイターやエンジニアではない人が非常に多く関与します。
販路については、近年はダウンロードが中心になってきた点では商業ゲームと同人ゲームの差は少なくなっています。しかし、大手ゲーム会社がリリースしたパッケージ商品が店舗で大量販売される光景は、同人ゲーム界隈ではまず見られません。
インディーゲームとの違い
同人ゲームとインディーゲームは非常に近い概念で、明確な線引きは困難です。どちらも大規模なパブリッシャーの資金援助を受けずに、個人や小規模なチームが開発するという共通点があります。しかし、日本国内では「同人ゲーム」という言葉に、同人誌即売会や二次創作といった文化的な背景が強く結びついているイメージがあります。
一方、「インディーゲーム」は、より広い意味で使われ、海外での「Independent(独立した)」というニュアンスが強いです。また、Steamなどの大手ゲーム配信プラットフォームで商業的に成功するタイトルが増えたことで、「インディーゲーム」という言葉がより一般的に使われるようになっています。
同人ゲームが多く開発されているジャンル

ここでは同人ゲームで扱われやすいジャンルを紹介します。
ビジュアルノベル・アドベンチャー系
ビジュアルノベルやアドベンチャーゲームは、ストーリーを重視したジャンルであり、同人ゲーム文化と非常に親和性が高いです。テキストと静止画、BGM、効果音を組み合わせることで、少人数でも豊かな物語世界を表現できるため、多くのクリエイターがこのジャンルに挑戦しています。特に、特定のテーマや設定に特化した作品が多く、商業作品では見られないようなユニークな物語を楽しめるのが特徴です。
アダルトゲーム
アダルトゲームは、ビジュアルノベルやアドベンチャーゲームの一つのサブジャンルとして、同人ゲーム文化の中で発展してきました。
このジャンルは、商業ゲームでは表現が難しいテーマや性的な内容を扱えるため、特定のニーズに応える形で独自の市場を形成しています。主にダウンロード販売サイトを通じて流通しており、多くの同人クリエイターがこの分野で活動しています。
また、同人誌即売会やダウンロードサイトでもアダルトゲームは常にある程度の位置を占めており、需要も供給も存在しています。
アクション・シューティング系
アクション・シューティング系は、同人ゲームで非常に多くの作品が開発されているジャンルの一つです。特に、緻密なドット絵や個性的なシステムを持つ「弾幕系シューティング」は、同人ゲームの黎明期から人気があります。
このジャンルは、少人数での開発でもコアなファンに刺さる作品を作りやすいため、同人クリエイターが腕を磨く場となっています。シンプルでありながらも、作者のこだわりや技術力が光る作品が多く、独自の進化を遂げてきました。
RPG・シミュレーション系
RPGやシミュレーションゲームも、同人ゲームで人気の高いジャンルです。特に、フリーのゲーム制作ツールが普及したことで、プログラミングの知識がなくてもオリジナルのRPGを制作しやすくなりました。
これらのジャンルは、深いストーリーや戦略性、キャラクターの育成要素などを盛り込みやすく、作者の個性が発揮されやすい点が特徴です。また、商業ゲームでは描かれにくいニッチな設定やテーマを扱った作品も多く、独自のファンを獲得しています。
同人ゲームを制作する際に選ばれている代表的なツール
ここでは、同人ゲーム開発で使われることが多いツールを紹介します。
RPGツクールMV/MZ
RPGツクールMVとMZは、プログラミングの知識がなくてもRPGを制作できるツールとして、長年にわたり同人ゲーム制作者に利用されています。特に、コマンド選択式RPGや、キャラクター育成、世界探索といった要素を持つゲームの開発に適しています。
ドラッグ&ドロップでマップを作成したり、データベースにキャラクターやアイテムのデータを入力したりするだけで、手軽にゲームを作れるのが大きな特徴です。
また、ツールのユーザーコミュニティが活発で、プラグインや素材が豊富に提供されているため、初心者でも安心して開発に取り組めます。
WOLFRPGエディター
WOLFRPGエディターは、高いカスタマイズ性を魅力とする無料のゲーム制作ツールです。RPGツクールと同様に、プログラミングの知識がない人でもゲームを制作できますが、より細かな部分まで作り込むことが可能です。
変数や条件分岐を駆使することで、独自のゲームシステムを実装できるため、RPGに留まらず、アクションやシミュレーションなど多様なジャンルのゲームが作られています。無料でありながら商用利用も可能で、多くの同人ゲーム制作者に愛用されています。
ティラノビルダー/ティラノスクリプト
ティラノビルダーとティラノスクリプトは、ビジュアルノベルやアドベンチャーゲームに特化したツールです。
ティラノビルダーは、直感的な操作でシナリオや演出を組み立てられるGUIツールであり、プログラミング不要で制作できます。
一方、ティラノスクリプトは、スクリプト言語を用いてより高度な演出やシステムを実装するためのツールです。
両者は互換性があり、必要に応じて使い分けることが可能です。文章や画像、音声データを組み合わせた奥行きのあるストーリー表現が可能なため、物語性を重視するクリエイターから支持されています。
Unity / Unreal Engine
UnityとUnreal Engineは、商業ゲーム開発でも広く使われているプロフェッショナルなゲームエンジンです。これらのツールは非常に高い表現力と多機能性を持ち、2Dから3Dまであらゆるジャンルのゲームを制作できます。無料で利用できる範囲が広いこともあり、同人ゲーム開発においては高品質な作品を制作したいクリエイターに選ばれています。
ただし、操作が複雑で学習コストが高いため、初心者にはハードルが高いとされています。しかし、一度習得すればゲームエンジニアとしてキャリアを築く上でも役立つスキルとなります。
同人ゲームの販売・配布プラットフォーム

ここでは、同人ゲームを販売、配布するためのプラットフォーム3種類を紹介します。
SNS・個人サイト上での無料配布
同人ゲームの最も手軽な配布方法の一つが、SNSや個人サイトでの無料配布です。特に、RPGツクールやWOLFRPGエディターといったツールで制作された作品は、開発者自身のブログやX(旧Twitter)上で公開されるケースが多く見られます。
これらのプラットフォームを利用することで、作者は広告費をかけずに直接ファンに作品を届けられます。また、プレイヤーからの感想やフィードバックを直接受け取ることができ、今後の開発に活かせるメリットもあります。
ただし、作品が多くの人の目に触れるためには、作者自身が積極的に宣伝活動を行うことが不可欠です。
BOOTHやDLsite、Steamなどのプラットフォーム・DLサイト
BOOTHやDLsite、Steamといったプラットフォームは、同人ゲームの販売・配布において重要な役割を果たしています。これらのサイトでは、決済システムやファイルのアップロード機能が整備されているため、作者は販売手続きの手間を省くことができます。
特にDLsiteは、アダルトゲームの取り扱いが豊富で、特定のジャンルの同人ゲーム制作者にとって主要なプラットフォームとなっています。また、Steamは世界中のユーザーに作品を届けられるため、商業的な成功を目指す同人クリエイターに広く利用されています。
コミックマーケットなどの同人イベント
同人誌即売会は、同人ゲームの文化が発展してきた歴史的なプラットフォームです。コミックマーケット(コミケ)などの同人イベントでは、作者がブースを出展し、直接手渡しでゲームを頒布します。
ユーザー(プレイヤー)が作者と直接コミュニケーションを取ったり、作品に込められた思いを聞いたりすることができます。また、CDやパッケージ版など、物理的な媒体での作品頒布が中心となるため、デジタルデータにはない特別な価値があります。
同人イベントは、単なる販売の場としてだけでなく、クリエイター同士の交流や、ファンとの出会いの場としても重要な役割を担っています。
成功事例から学ぶ!代表的な同人ゲーム作品群
ここでは同人ゲームの成功例3タイトルを紹介します。ただし、同人ゲームとインディーゲームの線引きは非常にあいまいで、以下に紹介するゲームがインディーゲームに分類されるケースもあることはご了承ください。
東方Project
「東方Project」は、ZUN氏が開発する弾幕系シューティングゲームシリーズです。1996年に第一作が発表されて以来、30年近くにわたり作品を出し続けています。
特に、コミックマーケットなどの同人イベントを中心に頒布され、圧倒的な知名度を獲得しました。同人ゲームとしては異例のヒットとなり、多くの二次創作作品を生み出し、巨大なコミュニティを形成するに至りました。基本的にZUN氏が一人で企画からプログラミング、グラフィック、音楽まで全て手掛けていることが大きな特徴です。
多くの作品が頒布されており、正確な売上は非公開ですが、関連商品や二次創作を含めると、その市場規模は非常に大きいとされています。
ひぐらしのなく頃に
「ひぐらしのなく頃に」は、竜騎士07氏が主宰する同人サークル「07thExpansion」によって制作されたサウンドノベルです。2002年から発表が始まり、同人誌即売会での口コミで徐々に人気が高まりました。
不可解な連続怪死事件を描くストーリーは、プレイヤーに考察の楽しみを与え、大きな話題となりました。累計売上は非公開ですが、アニメ化や漫画化、商業ゲーム化もされ、同人ゲームの枠を超えた成功を収めています。
個性的なキャラクターと、読者を惹きつけるシナリオが、本作の成功の大きな理由です。
月姫
「月姫」は、同人サークル「TYPE-MOON」が1999年に同人ゲームとして製作を開始した長編伝奇ビジュアルノベルです。緻密な世界観と、魅力的なキャラクター、そしてプレイヤーの選択によって物語が分岐するマルチエンディングシステムが評価され、熱狂的なファンを獲得しました。
累計頒布数は非公開ですが、関連作品の漫画化やアニメ化、リメイク版の商業化など、メディアミックス展開が積極的に行われました。本作の成功は、同人ゲームが商業作品に劣らないクオリティを持つことを証明し、その後の同人ゲーム文化に大きな影響を与えました。
まとめ
同人ゲームについて、定義や歴史、手掛けられやすいジャンルや代表作などを紹介しました。
同人ゲームは1970年代から存在するので長い歴史をもっており、多数のヒット作も存在します。近年は制作のためのツールが充実していますし、販売の場も多数あるので、手掛けやすくなっています。興味がある方は、この機会に同人ゲーム作りを始めてみてはいかがでしょうか。