「ゲーミフィケーション」とは?意味やゲーム要素がもたらすメリットなど
2025年9月30日
近年、「ゲーミフィケーション」という言葉に触れることが増えています。ゲーミフィケーションとは、ビジネスや学習過程などの非ゲーム分野にゲーム要素を取り入れることで、それに取り組む人の意欲を高める手法です。
このコラムでは、ゲーミフィケーションの定義や普及の背景、導入のメリット・デメリットや成功例などを解説します。
ゲーミフィケーションとは
ゲーム要素を非ゲーム分野に応用する取り組みを「ゲーミフィケーション」と呼びます。日本語では「ゲーム化」と表現されることもあります。これは、ゲームデザインの要素や思考法を、ゲーム本来の目的ではないサービスや物事に応用し、ユーザーの意欲向上やロイヤリティ強化を図る手法です。
例えば、レベルアップやアイテム獲得、スコア競争といったゲーム特有の要素を取り入れることで、業務や学習の過程にゲームのような楽しさが生まれるため、利用者を熱中させます。これにより、学習や目標達成へのモチベーションを高める効果が期待できます。
近年では、学校教育や企業研修、マーケティングなど幅広い分野で活用されています。
ゲーミフィケーション普及の背景
スマートフォンが急速に普及したことで、ゲーミフィケーションの活用も広がりました。総務省の調査によると、2011年には約30%だったスマートフォンの世帯保有率が、2020年には86.8%にまで増加しています(総務省:「令和2年通信利用動向調査」)。
スマートフォンの普及に伴い、教育や学習を目的とした多くのアプリケーションが開発され、ゲーミフィケーションの広がりを後押ししているのです。
また、2011年にアメリカの調査会社ガートナーが、ゲーミフィケーションを「ハイプサイクル」に取り上げたことも、注目されるきっかけとなりました。
インターネット環境の普及により、人々の情報収集や購買行動が変化しました。消費者自身が情報を能動的に取りに行く時代となり、一方的な情報提供だけでは行動を促すことが難しくなったため、自ら「動きたい」と思わせるゲーミフィケーションの考え方が注目され、広がっていったと考えられています。
ゲーミフィケーションを構成する主要要素
この項目では、ゲーミフィケーションを構成する主要な要素について、名称と概要を解説します。
基本のPBL要素
ゲーミフィケーションの重要な要素に、ポイント、バッジ、リーダーボードの3つがあり、これをまとめてPBL要素と呼びます。以下で個別の内容を解説します。
ポイント(Point)
ポイントはゲームでいうところのスコアです。行動に対してポイントが与えられることで、モチベーションが維持できるので取り組みの長期化につながります。
ポイントは適切な行動や成果に対して付与します。例えば簡単な課題をクリアした場合5点、難しい問題なら10点といった具合です。また、ポイントの蓄積を可視化できること、対外的に示せること、ゲームの進行と報酬の関係性が明確なことなどが重要です。
バッジ(Badge)
バッジはポイントの蓄積に従って与えられる称号です。例えば100ポイントが集まったら○○マスターなどの称号を付与することで、プレイヤーにとっての目標設定になります。また、獲得したことで自己肯定感がアップしたり、それ以降も取り組みを続けるモチベーションを生み出す作用もあります。
さらに、バッジ獲得者がいることが、グループの目印やアイデンティティ強化にもつながり、チームワーク強化も可能です。
リーダーボード(Leaderboard)
ランキング形式などで各プレイヤーの立ち位置を可視化することを指します。ランク付けによって、成長の確認や目標設定に役立ちますし、ランキングの上位を目指すことがモチベーションにもつながります。
ただし、過度な競争意識や差の明確化によって人間関係の悪化やモチベーションの低下を生むこともあるため、使い方に注意しましょう。
その他の重要な仕組み
ゲーミフィケーションを進めるうえでは、PBL以外にも重要な要素がありますので、以下に項目と概要を記載します。
ゴール(目的設定)と進捗や達成度の可視化システム
ゲーミフィケーションを進めるうえでは、ゴール(目的設定)と進捗や達成度を可視化するシステムを構築する必要があります。
ゴールを明確にすることで、行動の動機付けができますし、課題も分かりやすくなります。ゲーム業界であれば、売上や利益のアップのほか、ユーザー数やダウンロード数などがゴールとして考えられます。また、可視化については、前の項目で紹介したPBL要素が寄与します。
ミッション/クエスト
ゴール(目的)の設定ができたら、次に行うべきなのは、ミッションまたはクエストの設定です。クエストという言葉はゲームプレイヤーにとってなじみが深いと思います。
例えばゴール(目的)が「魔王の討伐」であれば、クエストは魔王のいる場所へ向けた旅や、魔王を倒すための強化です。
これをゲームビジネスに置き換えるなら、課金収益アップというゴールに向けて、ゲーム滞在時間を伸ばす、ユーザーを増やす、などのクエストが考えられます。
リワード(報酬)
リワードはクエストやミッションクリアに対する報酬です。何らかのクエストをクリアした際に報酬があることで、プレイヤーのモチベーションが維持しやすくなります。
「基本のPBL要素」の項目で解説したようにポイントを付与する方法も有効ですが、苦労してクエストをクリアしたのに報酬が少ないと、プレイヤーはやる気を失います。そのため、達成したクエストやミッションの難易度に見合う報酬を設定しましょう。
コミュニケーションやフィードバック
ゲーミフィケーションは単独で行うより、プレイヤー同士が交流することが重要です。適度な競争意識や目標設定につながれば、ゴールを目指す意欲アップもできるからです。
例えば、クエストの消化量やポイント獲得量のランキングを掲示することで、コミュニケーションを図ることができます。また、報酬の数を限定すると競争意識が高まることも期待できます。
ゲーミフィケーションを取り入れるうえで理解したい「バートルテスト」
ゲーミフィケーションに参加する人の動機はそれぞれ異なるので、その動機を知っておくことでゲーミフィケーションが進めやすくなります。「バートルテスト」は「集団行動と単独行動のどちらを好むか」、「ゲームと他プレイヤーのどちらに関心が向くか」の2種類の基準で、プレイヤーを4タイプに分ける方法です。
バートルテストのマトリックス
以下に、バートルテストによる4分類を個別に解説します。
アチーバー:成果を追求する人
アチーバーは単独行動を好み、ゲーム自体に関心がある人で、「成果を追求する人」とも言われます。
一般的なゲームに例えるなら、レベル上げやアイテム収集を重ねて強敵に挑むことを好むプレイヤーです。このタイプの人に対しては、ステップが明確で達成感を重視したゲーミフィケーションが向いています。
エクスプローラー:探索や発見を楽しむ人
エクスプローラーは集団行動を好み、ゲーム自体に関心がある人で、「探索や発見を楽しむ人」とも言われます。
アチーバーのようにレベルを上げて強敵に挑むというタイプではなく、予想外の報酬や新しい発見を望みます。このタイプに対しては、新たな企画への挑戦機会の用意や、ジョブローテーションの実施などが効果的です。
ソーシャライザー:交流を重視する人
ソーシャライザーは集団行動を好み、多プレイヤーに関心がある人で、「交流を重視する人」とも言われます。
分類理由を見てわかるように、人といることに喜びを感じるタイプなので、他部署と連携する役割を与えるなどして、他者に頼られる環境を作ることをおすすめします。
キラー:競争や対人優位を求める人
キラーは単独行動を好み、多プレイヤーに関心がある人で、「競争や対人優位を求める人」と分類されます。
このタイプは競争に勝つことに満足感を覚えるので、ランキングの開示や社内コンペなどで優劣を可視化することでモチベーション維持ができます。
ゲーミフィケーションを取り入れるメリット
ゲーミフィケーションを導入する主なメリットは、モチベーションの維持、明確な目標設定、そして達成感からくる自信の向上です。
まず、ゲーミフィケーションは参加者のモチベーションを維持しやすいという利点があります。ゲームが楽しいと感じる理由には、他者との競争、成長の可視化、即座に得られる報酬などが挙げられます。これらの要素を学習や仕事に応用することで、退屈に感じがちな活動が楽しく、自発的に取り組めるものへと変わります。
次に、目標を設定しやすい点も大きなメリットです。一人で進める学習やタスクは、最終的なゴールが見えづらく、曖昧になりがちです。しかしゲーミフィケーションでは、あらかじめゴールが設定されていたり、複数の選択肢から自分で目標を選べたりします。これにより、ゴールから逆算して、身近な目標も自然と明確になります。明確な目標を持つことで、迷うことなく作業を進められるため、生産性の向上にも繋がります。
また、小さなタスクを達成するたびに報酬を得られる仕組みは、参加者が着実に成長しているという感覚を与え、自信に繋がります。さらに、レベルアップやチームでの協力といった要素は、楽しみながら目標に向かって進むことを可能にします。
ゲーミフィケーションを取り入れる上での注意点
ゲーミフィケーションを導入する際には、いくつかの注意点があります。
まず、過度な競争意識が生まれてしまう可能性があることです。報酬やランキングがシステムに組み込まれていると、周囲と達成状況を比較し、焦燥感を抱いてしまうことがあります。その結果、人間関係のトラブルに繋がったり、不正行為が発生したりするリスクがあります。適度な競争はモチベーションを高めますが、度を過ぎると本来の目的が見失われかねません。
次に、学習や行動の動機が、その内容そのものではなく「ゲームの報酬」になってしまうことです。ゲーミフィケーションによってやる気を引き出せたとしても、それが知的好奇心からではなく、単にゲームを楽しみたい、ポイントを稼ぎたいという動機であれば、本質的な学習には繋がりません。この問題を解決するには、ゲーム要素と並行して、本人の知的好奇心を刺激するような他のアプローチも組み合わせることが重要です。
また、個人のレベルに合わせた設定が難しいという課題もあります。システムが統一されていると、一人ひとりのレベルに最適な課題を提供することが困難になります。課題が簡単すぎたり、難しすぎたりすると、楽しめずに飽きてしまい、モチベーションの維持という本来の目的が達成できなくなります。この問題を解決するためには、利用者のレベルを尊重し、適切な課題を提示できるような配慮が必要です。
ゲーミフィケーションの実用事例
ここではゲーミフィケーションが実際に導入されて成果を上げた事例を紹介します。
教育分野
ゲーミフィケーションは教育分野で広く活用されています。
例えば、小学生向けの学習アプリは、児童の学習意欲やテストの点数向上に貢献しています。また、金沢工業大学が開発したSDGsの学習カードゲームは、楽しみながら環境問題について学べる教材として利用されています。大学生向けの講義でも、学習成果をアバターのランキング形式で表示することで、学生の学習意欲を高めることに成功しています。
マーケティング
ゲーミフィケーションはマーケティングにおいても成功事例が多数あります。
日本コカ・コーラの公式アプリ「Coke ON」は、ドリンク購入でスタンプを集め、チケットと交換できる仕組みで、顧客の自社自販機利用を促進しています。また、スターバックスの「Starbucks® Rewards」は、購入額に応じて「Star」が貯まり、ランクアップしていく仕組みで、顧客の再来店とブランドロイヤルティ向上に成功しています。
医療・健康分野
医療・健康分野でもゲーミフィケーションは活用されています。
リハビリテーションでは、ゲーム要素を取り入れることで、患者のモチベーションを高め、治療の継続を促す効果が報告されています。また、ランニングアプリ「Nike Run Club」は、走った距離や時間に応じてバッジやトロフィーが獲得できる仕組みで、利用者の運動習慣の定着をサポートし、健康維持に貢献しています。
まとめ
ゲーミフィケーションは、業務や学習、健康づくりなどにゲーム的要素を取り入れることで、取り組む際の意欲をあげる効果をもちます。2010年代から利用されるようになっており、多くの分野で成果を上げていますが、メリットだけでなく注意点もあります。
導入の際はぜひこのコラムを参考にして、リスクを事前に把握・軽減したうえで、成果が上がるように取り組んでください。