「ゲームの攻略サイト」文化の歴史と現状、これからの形について
2025年9月30日
「ゲームの攻略サイト」というと、情報を得るための場所、あるいはサイト運営者が利益を得るための場所とイメージする人も多いでしょう。しかし、攻略サイトは時期によって性質を変えながら存在しており、ある時期には金銭的な利益ではなく、ゲーマーが集う場所であり、「文化」であったこともあります。
そこでこのコラムでは、まずゲーム攻略サイトの歴史を説明したうえで、ゲーマーとゲーム会社から見た攻略サイトの存在意義や、攻略サイトのこれからについて解説します。
ゲーム攻略サイトの歴史
この項目では、まずゲーム攻略情報の歴史を解説します。
①攻略本(雑誌)時代
1980年代、任天堂のファミコンが大ヒットしてゲームは一般に浸透していきましたが、まだインターネット環境が発達していませんでした。そのため、ゲームの攻略情報は、ゲーム情報誌や、特定タイトルの攻略本から得ることが一般的でした。
ゲーム攻略本が書籍全体の中で大きな位置を占めていた時代があり、1986年には「スーパーマリオブラザーズ 完全攻略本」がすべての単行本の中で年間売上1位となっています。またその年には、単行本売上ランキングの10位以内にゲーム攻略本が3冊も入っているので、1位の「スーパーマリオブラザーズ 完全攻略本」だけが売れたのではなく、ゲーム攻略本自体が人気書籍だったと言えるでしょう。
この時期には、ゲーム攻略本の発売日に書店に並んで買う人もいるほど、攻略本そのものに存在意義がありました。もちろん「特定のゲームを攻略するための本」という本来の目的もありつつ、ゲーム自体の設定が盛り込まれているなどの工夫もありました。そのため、ユーザーとしては攻略本を入手すること、何度も繰り返し読むことなどに大きな喜びがあったのです。
②個人運営(個人サイト上)での攻略サイト時代
1990年代後半、Windows95の普及をきっかけにインターネットが一般家庭に広がり、ゲーム攻略情報は雑誌や書籍からネット上で検索するものへと移行していきました。
当時は個人が趣味で運営する小規模なサイトが中心で、収益化手段も無いに等しく、「好きだからやる」という世界でした。掲示板での交流や、裏技・攻略の共有が盛んに行われ、ひとつのサイトで全情報を網羅するのではなく、複数のサイトを巡って情報を集めるスタイルが主流でした。
つまり、情報を公開する人の情熱と、そこに集うゲームファンにとって、個人運営の攻略サイトはひとつの文化であったと言えるでしょう。
こうした文化は、現在の動画配信や攻略Wikiの礎となり、当時の熱量と個人の情熱が今もゲーム攻略文化に息づいています。
③wiki時代
2000年代後半、ゲーム攻略サイトは「Wiki」という仕組みによって大きく変化しました。誰でも編集できる特徴を持つWikiは、匿名掲示板との連携を通じて情報の更新が活発に行われ、攻略サイトは個人運営から集合知の時代へと移行します。
掲示板で発見された情報がWikiに反映され、URLが掲示板に貼られるという循環が生まれ、膨大なデータが短期間で集まりました。この利便性により、従来の攻略本や個人サイトは急速に存在感を失います。
しかし、やがてWiki自体も利用者の減少とともに更新が停滞し、攻略文化は動画や配信へとシフトしていきました。
④まとめサイト・企業攻略サイト時代
2010年代に入ると、スマホゲームの大ヒットを背景に、企業による攻略サイト運営が本格化しました。「パズドラ」や「モンスト」など運用型ゲームは長期間の情報更新が求められるため、攻略サイトは安定した収益源となり、一部企業は上場を果たすほど成長します。
しかしこの時期には、アフィリエイト収益を目的としたまとめサイトやSEO重視の企業型サイトが乱立し、内容の薄い記事や情報の盗用が横行する弊害も見られるようになりました。その結果、ゲームタイトルによっては検索上位を占めるのが中身のないサイトとなったり、個人運営の攻略サイトやWikiが存在しなかったりと、情報不足が深刻化しています。
この現象は、ゲーム攻略情報がそれぞれの時代で築いてきた文化の質を揺らがせる要因となりました。
⑤企業攻略サイト&SNS・動画時代
2010年代後半から、企業による攻略サイトが収益化を目的に急増し、SEO対策を施して検索上位を独占するようになりました。これによって、発信に手間や費用をかけられる企業の方が個人より有利になっています。
ただし、同時期に発展したSNSやYouTubeといった動画サービスによって、個人でもピンポイントな攻略情報を簡単に投稿・消費できる時代となっています。加えて、Discordは気軽にサーバーを立て、テキストやボイスチャンネルで攻略情報を即共有できる場として急速に浸透し、攻略コミュニティの主要な情報交換手段になっています。
過去には個人のサイト、攻略Wikiなど主要な発信方法が明確な時代が続きましたが、2025年現在は上記のように発信方法が多様化して、それぞれの媒体に文化が生まれている状態と言えるでしょう。
ゲーマーから見たゲーム攻略サイトの現状
この項目では、ゲーマーの視点から見た攻略サイトの現状を、ライトゲーマーとヘビーゲーマーの目線から解説します。
ライトゲーマーにとっては企業攻略サイトは情報を集めやすい存在
ライトゲーマーにとって、企業が運営する攻略サイトは非常に使いやすい存在です。検索エンジンで上位に表示されるため、初心者でも簡単にアクセスでき、体系的に整理された情報をすぐに得られます。
攻略チャートや初心者ガイド、最新イベントのまとめなど、必要な情報が一か所に集まっている点は大きな魅力です。
また、更新頻度の高さや整理された情報も安心感を与えます。動画やSNSでの情報発信も増えていますが、網羅性や整然とした構成という点では、企業攻略サイトがライトゲーマーにとって最も利用しやすい選択肢になっています。
ヘビーゲーマーにとっては情報の検索方法や取捨選択が試される時代に
ヘビーゲーマーは、攻略情報を深く掘り下げるために、膨大な情報の中から必要なものを見極める力が求められる時代になっています。
例えば企業攻略サイトは更新頻度が高いですが、多くのユーザーに向けて発信するために労力が割かれているため、やり込んだ先の攻略情報(エンドコンテンツなど)は希薄・曖昧なことが多いです。そのため、ヘビーゲーマーには物足りなかったり、間違った情報が掲載されたりしていることもあるでしょう。
そのため、SNSや動画配信、掲示板、Discordなど多様な情報源を横断的に利用する人が多いです。しかし、個人の発信は主観的ですし、正確性や鮮度に差があるため、信頼性を見極める必要があります。
これらの状況から、検索スキルや情報の取捨選択能力がヘビーゲーマーのプレイ体験を左右する状況になっています。
ゲーム会社から見るゲーム攻略サイトの存在
この項目では、ゲームを開発・リリースしている会社から見たゲーム攻略サイトの、メリットとデメリットを解説します。
メリット
ゲーム攻略サイトは、ゲーム会社にとってユーザーサポートの一環として機能するメリットがあります。
スマートフォンアプリの継続率に関する分析では、ユーザーがゲームの仕組みやルールを理解できないこと、または攻略方法が分からずに離脱することが指摘されています。攻略サイトがこうした課題を解決する情報を提供することで、ゲームが進まないことからくる離脱の防止が可能です。実際に、多くのユーザーがゲームで行き詰まった際に気軽に攻略サイトを利用しているという調査結果も存在します。
このように、ユーザーがスムーズにゲームを続けられる環境を外部サイトが提供することは、結果としてゲームからの離脱率低下に繋がり、タイトルの長期的な運用に貢献していると言えるでしょう。
デメリット
ゲーム攻略サイトには、ゲーム会社にとってデメリットとなりうる側面も存在します。
特に問題となるのは、ゲームの物語や仕掛けに関するネタバレの拡散です。ユーザーのアンケート調査によると、意図せずニュースサイトやSNSでネタバレ情報が目に入ってしまうことに対し、不満を持つ声が上がっています。ネタバレはゲームの体験価値を大きく損なうリスクがあるので、回避したいと思う人が多いのは当然です。
さらに、公式サイトの発表に誤解の余地があった場合に、誤情報を拡散されてしまうリスクもあります。ネット上の情報はいったん広まってしまうと後から訂正するのが難しい特性があるため、ゲーム会社としては発信の仕方に注意する必要があります。
ゲーム攻略サイトのこれから
この項目では、ここまでの記述を踏まえつつ、ゲーム攻略サイトのこれからについて検討します。
ゲームに対する熱意・理解の段階別でニーズが変わっていく
ゲーム攻略サイトの役割は、ユーザーのゲームに対する熱意や理解の深さによって多様化しています。
ゲームを始めたばかりのライトユーザーにとっては、網羅的で分かりやすい企業攻略サイトが頼りになる存在です。
一方、ゲームにやりこみ要素を求めるヘビーゲーマーには、企業が運営するサイトは情報が薄く感じられがちなため、細かい情報を求めて個人が発信するニッチな情報にアクセスする頻度が増えていきます。情報検索の対象は、X(旧Twitter)やYouTube、Discordなどさまざまです。
このように、ゲームに対する取り組み方の違いで必要とする情報の質や量は変わりますが、すべてを網羅するサイトは存在しないのが実情です。
「ゲーム攻略サイトの有無や更新頻度がゲームタイトルの人気と比例」が加速する
ゲーム攻略サイトの存在やその更新頻度は、ゲームタイトルの人気を測る重要な指標となっています。
多くのユーザーが攻略情報を求めている人気ゲームには、必ずと言っていいほど詳細な攻略サイトが存在します。こうした攻略サイトは、ゲームの難易度が高い部分や、複雑な要素を解説することで、新規プレイヤーがゲームを始める障壁を下げ、定着を促す役割を果たしています。
また、サイトが定期的に更新され、新しいイベントやキャラクターの情報が充実していることは、既存のユーザーが継続してプレイする動機となります。企業は新しい情報を発信する場合、必ずX(旧Twitter)などのSNSでも告知しますから、新規ユーザー獲得や、離脱ユーザーの復帰の機会にもなります。
つまり、攻略サイトを用意し、発信を続けることが、ユーザーがゲームにエンゲージする機会を増やし、結果としてタイトル自体の人気を加速させる好循環が生まれていると言えるでしょう。
あまり認知が広まっていないゲームタイトルに個人攻略サイトのニーズが存在するように
多くのユーザーを抱える大手攻略サイトは、採算性や効率性を重視する傾向にあるため、一部のコアなユーザーしか遊ばないようなインディーゲームや小規模なタイトルは、情報が網羅されにくいのが現状です。
このようなニッチなジャンルでは、企業ではなく、そのゲームに深い愛情と知識を持つ個人ユーザーが作成した攻略サイトやwiki、紹介動画などが大きな役割を果たします。
個人サイトの目的は「そのゲームを広めたい」という熱意である場合と、「ニッチなネタで収益性を上げたい」という利益目的の両方があり得ます。いずれにしてもインディーズゲームの情報をいきなり大手企業が扱うことは少ないので、個人攻略サイトの意味は十分にあります。
誤情報・AIによるハルシネーションにより一層注意が必要になる時代に
近年、AI技術の発展により、誰でも簡単に情報を作成できる時代になりました。この影響はゲーム攻略サイトにも及んでおり、AIが生成する誤情報(ハルシネーション)の拡散リスクが高まっています。
例えば、存在しないアイテムの入手方法や、誤ったボス攻略法など、事実に基づかない情報がまことしやかに記載される可能性があるのです。企業や専門家が監修する情報だけでなく、AIによって自動生成された情報を見分ける能力が、これからのゲーマーにはより一層求められるでしょう。ユーザー自身が情報源の信頼性を判断するリテラシーを高めることが重要になっています。
まとめ
ゲームの攻略本や攻略サイトには、情報の側面と文化の側面があります。その発信方法は、インターネット環境の普及やSNS、動画サイトの登場などで変化していますが、ゲームという娯楽が人々を引き付けている以上、今後も形を変えながら存続していくことでしょう。
ゲームプレイヤーとゲーム開発者の双方にとって、さまざまな意味があるゲーム攻略サイトですから、ぜひこれまでのゲーム情報サイトの経緯を踏まえつつ、今後の動きに注目してください。