ゲームとポリコレ―議論の背景と業界への影響を徹底解説


2025年9月30日


近年のゲームはポリコレに基づく意識で作られているものが増えています。しかし、ゲームをする人の中には「ポリコレ意識が強いとゲームが面白くない」という人もいれば、「ポリコレは社会的意味があるので重要」という人もいます。


このコラムでは、ポリコレの定義やゲームに関わる背景を解説し、ポリコレ導入のメリットや、注意点を開発者目線から解説します。


ポリコレとは?ゲームにおける意味と背景

この項目では、まず「ポリコレ」の基本定義を明確にしたうえで、ゲーム業界と関わるようになった時期を解説します。


ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の基本定義

ポリコレとは、ポリティカル・コレクトネス(political correctness)の略語で、言葉自体は、政治的妥当性や政治的正しさ、と訳されます。ポリコレは1900年代にはすでに存在したとされているので、決して新しい言葉ではありません。


現在の日本でゲームとは関係なくポリコレという言葉を使う場合、人種やジェンダーなど社会の特定グループに対して、不快感や不利益を与えないように配慮された中立的な言動や政策を指します。


ただし、ポリコレという言葉の意味に厳密な定義はなく、ある場面では倫理観の過剰さを揶揄する使い方もされています。


ゲーム業界で「ポリコレ」が話題になり始めた時期

ポリコレがゲーム業界に取り入れられ始めたのは2010年代後半、欧米でのことと言われています。


そもそも、過去の戦闘要素があるゲームでは主人公の多くが男性であり、ヒロインは白人の美人という偏りがありましたし、人種や国籍、障がい者などへの差別も少なからず見られました。


そのため、ゲーム会社に「性別の偏りや差別的表現をなくすべき」という社会的責任が課せられたのは自然な流れと言えるでしょう。


ゲームにおけるポリコレ導入の目的とメリット


この項目では、ゲームにポリコレを導入することの目的や、導入によって得られるメリットを紹介します。


多様性がもたらす新しい物語表現を追求するため

ポリコレを意識することで、多様な背景を持つ人々がゲーム制作に参加しやすくなります。その結果、既存の価値観に縛られない新しいアイデアや表現方法が生まれる可能性を秘めています。


ポリコレを導入することで、性別や人種、年齢といった枠にとらわれず、多様な人材の確保が可能となります。これにより、新たな物語の創出だけでなく、ビジネスの成長にもつながると考えられています。


多様な人材が集まる環境では、これまでゲームでは描かれなかった視点やストーリーが生まれやすくなります。例えば、異なる文化や習慣を深く理解したキャラクターや、多様なライフスタイルを反映した物語など、より多くのプレイヤーに共感を呼ぶ作品が生まれるでしょう。


ダイバーシティ推進と企業ブランドの向上のため

現代社会において、企業がポリコレを意識した経営を行うことは、社会からの信頼獲得に不可欠です。


ゲーム開発においても、ポリコレの導入は企業ブランドの向上に繋がります。ポリコレを意識したゲームや広告、採用活動は、企業としての社会的責任を示すことになり、顧客や投資家からの評価を高めます。


また、ポリコレの推進は、従業員の満足度とモチベーションの向上にも寄与します。多様な考えや特性を持つ人々を受け入れる姿勢を示すことで、社内での差別や偏見を抑制できます。マイノリティを含むすべての従業員が安心して働ける環境は、心理的安全性を高め、帰属意識や生産性の向上に繋がります。


こうした取り組みは、結果として企業価値を高め、事業運営に良い影響をもたらすでしょう。反対に、ポリコレを無視した企業は社会的な非難を浴びるリスクを抱えることになります。


国際市場に対応するための必要性から

過去には日本で作るゲームは日本人に受け入れられれば良い、という感覚もあったかもしれません。しかし、ゲーム業界でもグローバル化が進んでいるため、海外ユーザーから批判されるようなゲームはリリースされづらくなっています。


国内市場より国際市場の盛り上がりが激しいことを考えても、海外の反響は無視できませんから、ポリコレを考えざるを得ない実情もあります。


「ポリコレ疲れ」や批判が起きる理由

「社会的に良いもの」であるはずのポリコレですが、批判される場合もあります。この項目では、ポリコレによってマイナスの反応があることに言及します。


ゲーム性や没入感が損なわれるケースがあるため

「ポリコレの過剰な導入は、ゲーム本来の楽しさや没入感を損なう可能性がある」という意見は常に存在します。


ゲームの中には、意図的に非日常的な世界や設定を描くことでプレイヤーを魅了するものが多数あります。しかし、そこにポリコレ基準を細かく適用していくと、本来存在したはずの非現実性やファンタジー要素が薄れてしまう、と思う人もいます。


例えば、「表現の自由度は高いほど良い」と思う人にとっては、特定のキャラクターの描写が批判を避けるために変更されたり、プレイヤーの選択肢が制限されたりすることで、「ゲームの自由度やストーリーの展開が不自然になる」と感じられがちです。


そのため、ポリコレに配慮して行った変更が、「プレイヤーがゲームの世界に深く入り込むことを妨げる」、「ポリコレ疲れにつながる」と批判される可能性があります。


ストーリーの一貫性が崩れる懸念があるため

ポリコレを意識した結果、原作や先行作品の物語やキャラクター設定を変更することもあり、それによって「整合性が失われる」と指摘されることがあります。


特に、歴史や神話を題材にした作品では、史実や伝承に基づいた描写がポリコレの観点から問題視され、変更を余儀なくされることは珍しくありません。これにより、神話などを優先する人から見ると「展開が不自然」、「あるべきキャラクター性が歪められた」、「一貫性がない」と批判されることもあります。


さらに、「原作や先行作品、神話などに対するリスペクトがない」と感じる人が多いと、炎上騒ぎに発展するかもしれません。騒ぎが大きくなったり、マイナスイメージが強くなったりすると、さほど問題を感じていなかった人も離脱してしまうリスクも上がります。


やりすぎによる「説教臭さ」が出てしまうため

「ポリコレのメッセージが過剰」と受け取られてしまうと、「ゲームを楽しめない」、「説教臭い」と批判されることもあります。


ゲームを通じて特定の社会問題を啓発することは可能ですが、それが露骨すぎると、押し付けがましく感じるプレイヤーもいるでしょう。登場人物のセリフやストーリーの進行が、ポリコレ的なメッセージを伝えるためだけに存在しているように感じられると、ストーリーに乗り切れないプレイヤーが増えます。


メッセージ性や多様性が守られていることを喜ぶプレイヤーがいる一方、「娯楽を求めているのに、メッセージ性を盛り込まないでほしい」、「なんでもアリの方が楽しい」と思う人もいるのは事実です。


本来予定していたキャラクターデザインに影響を与えてしまう可能性があるため

ポリコレへの配慮は、ゲームのキャラクターデザインにも影響を及ぼすことがあります。


特に、性的描写や一部の身体的特徴は、ポリコレの観点からは批判の対象になりがちです。それを踏まえて、本来予定されていたキャラクターの個性的なデザインが、批判を避けるために無難なものに変更されたケースも存在します。


これに対して、「キャラクターの魅力が半減し、作品の世界観が損なわれた」と批判する声が上がることもあり得ます。プレイヤーが固定のイメージを抱いているキャラクターがいる場合、ポリコレに由来する変更があると、裏切られたと感じる人もいるでしょう。


キャラクターはゲームの重要な要素であるため、そのデザインが制作者の意図と異なる形で変更されることは、作品の人気や評価の低下につながる可能性があります。


ゲーム開発者・業界志望者が知っておくべきポリコレに関するポイント


この項目では、特にゲーム開発者やこれからゲーム業界に入ろうと思っている人に、知っておいていただきたいポリコレのポイントを解説します。


批判を避けつつ多様性を取り入れるポイント

ポリコレに関する批判を避けるためには、単に社会的な要請に応えるだけでなく、作品の世界観や物語に自然に溶け込ませることが重要です。


例えば、多様なキャラクターを登場させる場合、彼らの背景や個性、行動原理を深く掘り下げ、説教じみた描写にならないよう工夫する必要があります。表面的な多様性ではなく、ストーリーやゲームプレイに必然性を持たせることで、プレイヤーは自然にそのキャラクターを受け入れ、共感を得やすくなるからです。


また、特定の文化や属性を扱う際には、その当事者や専門家と協力し、描写に偏見やステレオタイプが含まれないよう慎重に検証することが不可欠です。これを徹底することにより、多様性を尊重しつつも、作品の質やゲーム体験を損なわないバランスの取れた表現が可能となります。


ローカライズでの文化的配慮の重要性

ゲームを世界中に展開する際には、ローカライズにおける文化的配慮は非常に重要です。一つの国や文化圏で問題なくても、別の地域では不適切と見なされる表現も存在するからです。


例えば、宗教的なシンボル、歴史的事実、あるいは特定の身体的特徴やジョークなどが、地域によっては批判の対象となることがあります。これらの問題を未然に防ぐためには、現地の文化や習慣に精通した人材を起用したり、現地のプレイヤーコミュニティからのフィードバックを積極的に取り入れたりすることが有効です。


ゲームの表現を現地の文化に合わせて適切に調整することで、より多くのプレイヤーに受け入れられ、世界市場での成功に繋がります。


面倒に感じる人もいるかもしれませんが、Steamなどのゲームプラットフォームの登場により、自社のタイトルを世界に発信する機会が増えています。そのため、ローカライズの際にはポリコレに配慮することが重要です。


「自分の作品の軸」を明確に持つことの必要性

ポリコレを巡る議論が活発化する中では、ゲーム開発者自身が「自分の作品の軸」を明確に持つことが不可欠です。


社会的な批判を恐れるあまり、安易に作品の方向性を変えてしまうと、本来伝えたいメッセージや作品の個性を見失いかねません。ゲーム開発者は、なぜその作品を作るのか、何をプレイヤーに伝えたいのかという核となる部分をしっかりと持ち続ける必要があります。その上で、ポリコレの観点をどのように作品に取り入れるかを検討することが重要です。


例えば、特定のキャラクターデザインやストーリー展開が、ポリコレの観点から批判を受ける可能性があると判断した場合でも、それが作品にとって不可欠な要素であれば、その理由を明確に説明し、プレイヤーに理解を得る努力をすることも大切です。


ポリコレを意識した開発のメリットとリスクへの理解

ゲーム開発者は、ポリコレを意識した開発がもたらすメリットとリスクの両方を理解しておく必要があります。


メリットとしては、まず多様な視点を取り入れることで、これまでにない斬新なアイデアや表現が生まれ、作品の可能性を広げることができます。また、社会的な信頼を得ることで、企業ブランド価値の向上や、より多くの層のプレイヤーにアピールできる可能性が高まります。


一方、リスクとしては、過度な配慮がゲームの面白さやストーリーの一貫性を損なうこと、そして「ポリコレ疲れ」や反発を招く可能性があります。


ゲーム開発者は、これらのメリットとリスクを慎重に比較検討し、作品にとって最適なバランスを見つけることが求められます。安易に流行に乗るのではなく、自らの作品の価値観と向き合い、誠実な姿勢で開発に取り組むことが、長期的な成功に繋がります。


まとめ

ゲーム業界でのポリコレの影響や導入のメリット、注意点などをまとめました。基本は特定のグループや人に不快感を与えず、差別などを起こさないためのものなので、社会に対するメリットがあるのがポリコレです。


とはいえ、その考え方に慣れない人にとっては、「むしろ不快」、「不要」と捉えられるときもあります。そのため当コラムに記載した注意事項を踏まえて、適切なポリコレ導入を行ってください。

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