パチンコの演出を作っているのはゲーム会社!?遊技機(パチンコ)メーカー業界ガイド
2025年10月27日

ゲーム会社の中には、遊技機(パチンコやスロット)の開発や販売を行っている会社が多数存在します。しかし、遊技機(パチンコ)メーカーの業界構造や仕事内容については、あまり知られていないかもしれません。
そこでこのコラムでは、遊技機(パチンコ)メーカーの全体像や代表的な職種、この業界で働く魅力や業界の現状、課題などを解説します。
パチンコゲーム業界とは
この項目では、まずパチンコゲーム業界について解説します。
業界構造の全体像
パチンコゲーム業界の全体像を、パチンコゲームメーカー(遊技機メーカー)の視点で解説します。
まずパチンコゲームメーカーの大まかな収益モデルは、パチンコ機(遊技機とも言う)を製造し、パチンコホールに販売することで成り立ちます。
例えばセガサミーグループのサミーは、遊技機自体の開発や製造を行ってパチンコホールに販売しますが、遊技機全体ではなく、画像やプログラミングなど部分的に請け負う会社もあります。これはゲーム開発におけるパブリッシャーとデベロッパーのような関係と考えるとわかりやすいでしょう。
一方のパチンコホールは、パチンコやスロットを楽しむ顧客から利益を得ています。
パチンコゲームメーカーの直接の取引相手はパチンコホールですが、最終的に多くのプレイヤーに楽しんでもらうことで販売台数が伸びる構造です。そのため、遊技機に触れる顧客のニーズや動向を把握することも重要です。
遊技機(パチンコ)の演出に携わる職種と工程
この項目では、パチンコゲーム機メーカーで遊技機(パチンコ)の演出に携わる職種を紹介し、工程についても触れます。
企画・プランナー
パチンコゲームメーカーの企画・プランナーは、遊技機のコンセプトについての検討や提案、システムの企画や立案を担当します。
パチンコゲーム機はアニメや特撮などの有名IPを扱うものが多いので、ライセンス関連の業務もあります。また有名IPや、長年後継機が出続けているロングヒットタイトルについては、世界観を壊さないように注意を払いつつ、パチンコならではの楽しさを加えなければならない特殊性があります。
さらに、企画内容を各所にプレゼンして了承を得る工程や、仕様書を作成して開発スタッフに依頼する過程があるなど、企画・プランナーの仕事は非常に多様です。
ほかにもゲーム業界と大きく異なる要素として、出玉設計という業務があります。当たりや確変突入の確率を左右する仕事であり、これによって顧客の楽しみやホールの収益性が大きく変わるため、緻密な設計が要求されます。
映像・演出クリエイター
パチンコゲーム機には画像を使った演出が数多く盛り込まれるので、映像演出クリエイターの仕事も重要です。企画・プランナーが作った仕様書や絵コンテにもとづいて、CGやアニメーションを制作します。
パチンコにおいては、リーチ発生時や当たり確定時などの特有の演出があり、映像・演出クリエイターの腕の見せ所が豊富です。
プログラマー
仕様書に基づいて、当たりや外れ抽選のプログラミングや、さまざまな演出の図柄制御などを担当します。また、職場によってはテストやデバッグ作業を行う場合もあります。必要な言語を扱うスキルや論理的思考が求められる職種です。また、遊技機に関しては法的知識も必要となる特殊性があります。
サウンドクリエイター
演出上必要なさまざまな効果音やBGM、キャラクターのセリフなどを扱います。オリジナル作品であれば音楽の作成や声優の選定なども行いますが、既存IPを扱う場合は原作に登場した声優に仕事を依頼します。時には有名声優とのやり取りもあり、スケジューリングなどの配慮も必要です。
営業・マーケティング
パチンコゲームメーカーの営業先は、多くの場合パチンコホールです。自社の遊技機のコンセプトや特長を伝達してホールに多く導入してもらうよう働きかけます。また、導入後はプレイした人の反応を把握したり、ホールと情報共有したりもします。
販促のための資料作成なども行うので、自社の機種の魅力や独自性を細かく把握すること、それを最大限に伝えることなども要求されます。
遊技機(パチンコ)メーカー業界で働く魅力

この項目では、遊技機(パチンコ)メーカー業界で働くことの魅力を解説します。
人気IPとのコラボレーション機会が得られる
遊技機には人気IPが扱われることが多いので、人気のアニメや特撮などとコラボレーションする機会が豊富に得られます。時には好きな作品の演出を担当したり、有名声優に会ったりする機会もあるでしょう。
また、原作のイメージを生かしながらも、リーチや当たり時の遊技機特有の演出があるので、原作の魅力を生かしつつ、遊技する人に楽しんでもらえるようにするやりがいがあります。
プロジェクトによっては通常のゲームを開発するよりも大規模な予算での映像制作が可能
遊技機の開発費は内容によって大きく異なりますが、液晶画面を実装したものなら1機種10億円程度が相場と言われています。
一方、ゲーム開発費は、一般的なソーシャルゲームなら数百万円~1千万円程度、AAAタイトルの場合数百億円と、かなりの幅があります。しかし、一般的な家庭用ゲームであれば1億円前後でできるものも多いようです。
上記を踏まえると、遊技機の開発は一般的なゲーム開発より多くの費用をかけて映像制作ができる場合もあると考えられます。
ただし、遊技機の場合は筐体の開発費がありますし、開発工程も大きく異なるので、ゲーム開発と単純に比べることはできません。上記はあくまでも参考程度に考えてください。
新規ジャンルのゲーム開発に比べて開発サイクルが安定している傾向にある
新規ゲーム開発では業界標準的な開発期間がなく、プロジェクトによって大きく異なります。また、いったん決められた開発期間が、市場動向やスポンサーの意向、ユーザーの反応などにより変動することも珍しくありません。
一方で遊技機の開発期間は、メーカーや機種によって変動はあるものの、おおよそ2年間という明確なサイクルで進められるとされています。遊技機の開発サイクルは、新規ジャンルのゲーム開発と比較して安定性が高いという特徴があります。
遊技機(パチンコ)メーカー業界の現状と課題
この項目では、遊技機(パチンコ)メーカー業界の現状や、解決すべき課題を解説します。
市場規模(遊技人口)の変動
「レジャー白書2024」によれば、パチンコ参加人口は2024年時点で約660万人となり、過去30年さかのぼっても最低の数としています。
また、上記の情報では衰退のイメージだけが伝わるかと思いますが、パチンコ産業が近年縮小していると言っても、実は市場規模はゲーム市場より圧倒的に上位です。
角川アスキー総合研究所が2025年8月に発表した「ファミ通ゲーム白書2025」によれば、2024年の国内ゲームコンテンツ市場は2兆3961億円です。一方、パチンコ産業の市場規模は2024年から2025年にかけて14~15兆円付近で推移しているため、国内ゲームコンテンツ市場の5倍以上の市場を保っています。
遊技機周りの法律・規則の変動
遊技機(パチンコ)メーカー業界は、法律や規則の変化によってしばしば大きな影響を受けます。
例えば2018年に旧規則機から新規則機への移行が始まりましたが、この変更は業界へのマイナス影響を及ぼし、2022年にかけて多くのパチンコホールが閉業に追い込まれました。
しかし、2022年にスマートパチンコ、スマートスロット(物理的ではなく電子的なメダル・パチンコ玉でプレイする遊技機)の導入が始まったことは業界の追い風となり、ここ数年は店舗数の増加が続いています。
スマート遊技機などの浸透
前の項目でも記載したスマート遊技機は、2022年から導入されています。スマート遊技機は顧客がパチンコ玉やメダルに触れることがなく、不正防止や依存症対策になるなど社会的なメリットがあります。
これによってパチンコホール側は従業員が重いメダルやパチンコ玉を運んだり、計算したりする手間が軽減され、人的リソースの最適化が進みました。
またメーカーとしては機体の自由度が上がったため、出玉性能を変化させたり、ゲーム性を向上させたりして、顧客へのアピールを強化しています。
業界イメージと社会的認識
「パチンコ業界」というと、激しい騒音、雰囲気の悪さ、依存症などネガティブなイメージがつきまといがちです。そのためパチンコ業界に従事している、と伝えたときに偏見を被る可能性がありました。
しかしこの業界には一般社団法人パチンコ・パチスロ社会貢献機構という団体が存在しており、毎年数億円規模の社会貢献を行っています。その活動内容はさまざまですが、災害救済や地域貢献への取り組みに力を入れるなど、社会的認識をもって業界イメージの向上に努めています。
遊技機(パチンコ)メーカー業界の将来展望

ここからは、遊技機(パチンコ)メーカー業界の将来性や展望について解説します。
オンライン・デジタル化の可能性
近年、ゲーム業界ではオンラインプレイがごく普通に行われています。これを踏まえて、パチンコやスロットなどの遊技機もオンライン化を進めて、パチンコホールに行かなくてもプレイできる環境を作る可能性が示唆されています。
そもそも遊技機(パチンコ)メーカー業界はゲーム業界と近い存在なので、オンラインプレイやデジタル化の知識や技術は豊富です。
また、近年パチンコ玉やメダルに顧客が直接触れないスマート遊技機の導入が進んだことに伴って、遊技機開発の自由度も上がっています。これらの状況を踏まえて、オンライン化やデジタル化による新たな取り組みが期待できます。
海外市場への展開
日本国内の遊技機市場が成熟・縮小傾向にある中、複数の遊技機メーカーが海外展開を成長の鍵と位置づけています。実際に、日本の遊技機はすでに海外に進出を始めており、韓国や台湾、グアムやアメリカなどで導入実績があります。
国や地域によって法制度や文化的背景が異なるため、日本型遊技機がそのまま受け入れられるわけではありません。しかし日本で積み重ねられた演出の技法や、筐体開発技術は、海外市場でも大きな武器になるでしょう。
これによって、飽和した国内需要だけに頼るビジネスモデルが緩和できますし、市場自体の拡大が可能となります。海外市場のリサーチや現地パートナーの確保などの課題はありますが、成功事例も見られるため、今後の展開が期待されます。
カジノ産業との関連性
遊技機メーカーがカジノ産業(特にスロットマシンやiGaming=オンラインカジノ)と関連を深めつつある点も、将来展望として重要です。
例えば、日本のスロットコンテンツをアメリカの市場に配信する動きはすでに出ています。また、これを踏まえてほかの遊技機メーカーや関連企業がこの分野への参入を図っていますし、アメリカで発展させた市場を日本に逆輸入することも考えられています。
これらの動きは、遊技機メーカーにとって新たなビジネスチャネルとなる可能性があります。さらに、カジノ施設やIR(統合型リゾート)などが国内でも動き出しているため、遊技機メーカーや関連企業はこの流れに注意を払っておくべきです。
まとめ
遊技機(パチンコ)メーカー業界について、その全体像や業界の状況、現存する課題や将来の展望などを解説しました。
パチンコ業界は黄金期に比べると縮小していますが、ここ数年はスマート遊技機の登場で復調傾向にあります。また、縮小したとはいえ、国内ゲームコンテンツ市場の5倍以上の規模があり、決して小さな規模ではありません。
さらに、オンライン化やデジタル化、海外市場への進出なども進んでいるので、遊技機(パチンコ)メーカーに興味がある人は、今後もこの業界に着目しておくことをおすすめします。