ゲーム会社の決算を読み解くには?数字から見える業界トレンドと企業戦略の裏側
2025年11月21日

このコラムでは、ゲーム会社の決算について解説します。ゲーム開発者やプレイヤーにとって、「決算書」はわかりにくい面が多いかと思いますが、数字や決算書の書面から見えてくることも多いので、ぜひこの機会にゲーム会社の決算に着目してみてください。
ゲーム業界における決算の意味
そもそも「決算」とは、事業上の経営成績と財政状態を、一定期間ごとに把握する作業です。決算は事業の状態を正しく知ることに役立ちますし、株式を上場している企業であれば、株主への報告にも用いられます。また、納税額の根拠にもなるので社会的にも大きな意味があります。
ゲーム会社にとっても決算の基本的意味は上記と同様です。ただしゲーム業界では一つのヒット作で業績が大きく変動することがあるため、決算情報から現在の事業の勢いがわかるという特徴があります。
また、上場企業であれば株主向けに利益や損益が出た理由の解説や、今後の事業の方向性などを説明するので、決算時に様々な状況が読み取れます。
そのため、自身の勤務先や転職を検討しているゲーム会社の決算情報も随時確認することをおすすめします。
決算書の主な構成とポイント
この項目では、決算書を構成する主な要素と、決算書を見るうえでのポイントを解説します。
損益計算書(PL)で見る売上・利益構造
損益計算書(PL)は会社の「儲け」を示す書類で、一定期間にどれだけ稼ぎ、どれだけ費用を使ったかを明らかにします。ゲーム会社の場合、売上高はゲームソフトやダウンロードコンテンツ(DLC)の販売、アプリ内課金アイテム、プラットフォームからの手数料収入などから構成されます。
ここで特に注目すべきは、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益といった「利益」の種類です。これらを比較することで、ゲームの開発や運営にかかるコスト構造や、本業以外での収益力、そして最終的な企業の稼ぐ力を判断することができます。
仮に売上が大きくても利益が出ていなければ原価や販管費、営業外損益などが大きいと判断できるので、売上だけで企業の情勢や健全性を知ることはできません。
貸借対照表(BS)で見る開発投資と資産のバランス
貸借対照表は、会社の財政状態を把握するための書類で、「資産」「負債」「純資産」の三つの要素から構成されています。貸借対照表はバランスシート(BS)と呼ばれており、決算資料のひとつとして重視されます。これは資産、負債、純資産のバランスを見ることで事業の安全性や健全性が見えるからです。
ゲーム会社においては、開発中のゲームや完成したゲームの資産化(無形固定資産)が、他業種と比較して重要になる場合があります。この無形固定資産の額、特に「ソフトウェア」として計上されている部分を見ることで、将来の収益源となる開発プロジェクトにどれだけ投資しているかを推測することができます 。
キャッシュフロー計算書(CF)で見る成長余力
キャッシュフロー計算書(CF)は、企業の現金の流れを示す書類で、「営業活動」「投資活動」「財務活動」の三つの区分に分かれて現金の増減を表しています。よりわかりやすく言うと、キャッシュフローはお金がどう動いたかを示す指標です。
営業活動によるキャッシュフローがプラスであれば、ゲーム販売や運営などの本業でしっかりと現金を稼いでいることがわかります。このように重要な役割をもつことから、キャッシュフロー計算書は、貸借対照表、損益計算書と並んで財務三表とも言われます。
営業キャッシュフローがプラスであれば、本業で現金を稼ぐ力があると言えます。一方、投資キャッシュフローが大きくマイナスなら、開発への積極投資をしている可能性があります。また財務キャッシュフローを見れば借入や返済、配当などの資金調達・還元の動きもつかめます。
キャッシュフローを見れば企業の成長余力や資金繰りの健全性をよりリアルに把握できます。
ゲーム会社の主な決算時期

日本のゲーム会社は、パブリッシャーやデベロッパーなどの役割や企業規模の大小に関係なく、3月31日を決算日としていることが多いです。これは日本の会計年度が3月末で切り替わることに由来しています。
ただし、企業によっては12月や9月を決算日としているケースもあるので、個別の会社情報が必要な場合は各社の公式サイトを参照してください。
決算発表は通常、決算日から数週間から2ヶ月程度の期間内に行われ、企業の業績は四半期ごと(3ヶ月ごと)に公表されることが一般的です。この四半期ごとの発表は、開発の進捗や市場の反応をタイムリーに把握するための重要な機会となります。そのため大手ゲーム会社の四半期ごとの決算情報は、ゲーム情報サイトでも紹介されることが多いです。
決算資料から読み解くゲーム会社の経営戦略例
この項目では、ゲーム会社の経営戦略を決算資料から読み解いていきます。
開発費の推移から見る投資姿勢
決算資料に含まれる開発費の推移は、そのゲーム会社がどれだけ将来に向けたゲーム開発に力を入れているかを示す、最も重要な指標の一つです。
ゲーム会社に限らず、開発費が増加傾向にあれば、積極的に新規事業に注力していることが読み取れます。これをゲーム開発事業に置き換えれば、新規タイトル開発や、既存の有力IPへの大規模な投資が行われている可能性が高いと考えてよいでしょう。
上記をエンジニア視点で見れば、新しい技術や大規模なプロジェクトに携わる機会が増えることを示唆します。
逆に開発費が抑制されている場合は、経営の安定化や、効率的な内製開発体制へのシフト、あるいは小規模なタイトルに注力するなど、様々な戦略をとっていることが考えられます。
売上比率からわかる新作と既存IPの依存度
ゲーム会社の売上構成比を分析することで、その企業が新作への依存度が高いのか、それとも長期的に安定した収益を生む既存の知的財産(IP)が主体となっているのかを把握できます。
新作タイトルによる売上の比率が高い場合、新規ゲームの開発に力を入れて成長を考えていると予想可能です。ただし、新作はヒットが約束されているわけではないので、新作の売上比率が高い状態が続いている場合、ハイリスク・ハイリターン事業になっているかもしれません。
一方、既存IPをベースにしているゲーム会社は、比較的リスクの低い経営基盤を築いていると判断できます。
ただし、売上はトレンドの変化や社会情勢に左右されることもあるので、必ずしも経営陣の狙いと一致しない場合もあります。たとえば新型コロナウイルス流行時には巣ごもり需要が発生したため、予期せぬ売上向上を果たしたゲーム会社が多数ありました。
また、売上構成は年によって変わることもあるので、特定の年の資料で傾向を判断するのは危険です。ゲーム会社が新規タイトルと既存IPのどちらに依存する割合が高いのかは、数年分の決算資料を見て判断することをおすすめします。
新領域への注力度合い
決算説明資料の中には、新規事業や技術革新、あるいは新たなビジネスモデルへの言及が含まれることが多いです。そのため決算資料に目を通すことで、そのゲーム会社がVR/AR、メタバース、eスポーツといった新領域にどれだけ注力しているかが読み取れます。
特定分野への研究開発費や投資額の記載を確認することで、単なる構想だけでなく本気で開発に注力しているかどうかを把握できます。
また、世の中としては目新しい事業でないとしても、過去とは異なるジャンルに進出する場合も注目すべきでしょう。事業の方向性が変われば売上や利益も変動しますし、部署の新設や整理などを伴うことも多いからです。
投資家・ファンが注目すべき決算情報のポイント
ゲーム会社の業績を評価する際、売上高の大きさだけでなく、営業利益率に注目することが重要です。営業利益率は、売上に対する本業の利益の割合を示しているため、その会社が効率よく稼いでいるかを測る指標だからです。
また、業績の持続性を見極めるには、一時的なヒットによって収益がアップしているのか、それとも継続的な収益を生むビジネスモデルができているのかを見分ける必要があります。
基本無料のスマートフォンゲームは、販売型のゲームより初期開発コストを低く抑えて、課金によって長期的な収益を狙うビジネスモデルです。一方、販売型のゲームは新作としてリリースした直後に収益が集中しやすいので、両者では利益構造に大きな違いがあります。
また、財務キャッシュフローや株主配当などを見ると、その企業が成長フェーズにあるのか、安定状態にあるのかが判断できるので、投資家としては注目すべきポイントです。
一方、ファンとして決算資料を見る場合、今後の新作情報や企業としての方向性などを見ておくべきでしょう。また、リリースされたタイトルがどの程度利益を生んでいるかも確認することをおすすめします。大きな利益を上げたタイトルであれば続編が作られる可能性が高いからです。
決算がゲーム開発に及ぼす影響

この項目では、決算がゲーム開発自体にどのような影響を与えるのかを解説します。
開発リソース配分と投資判断への影響
決算の結果は、「今後の開発をどのように進めていくか」といった点や「新規プロジェクトへの投資判断」などに直接的な影響を及ぼします。
企業として利益がしっかり生み出せていれば、ある程度のリスクを取ってでも革新的な新規タイトルの開発に資金を投じやすくなるでしょう。一方業績が厳しい場合、不採算プロジェクトの縮小や中止、あるいは既存の収益性の高いIPへの集中など、守りの姿勢に転じる可能性が高くなります。
また、決算資料の損益の状態やその分析、今後の方向性などが書かれていることも少なくないので、数値的結果だけでなく、文章の部分にも目を通すことをおすすめします。
チーム体制・人員計画への影響
決算で示された事業の方向性や収益状況は、開発チームの体制や人員計画にも深く関わってきます。例えば、特定の技術分野に新規に注力する決定が下された場合、その分野のエンジニア採用が活発になったり、既存チームの再編成が行われたりするでしょう。また、ゲーム業界ではヒット作が出た際に、決算賞与といった形で社員に還元されるケースもあり、これは開発者にとってのモチベーションアップにもつながります。
一方で業績が好ましくない場合、赤字部門を整理して組織をスリム化したり今後の採用を抑制したりする可能性も考えられます。
品質・開発期間へのプレッシャー
四半期ごとの決算で業績を外部に公開するプレッシャーは、開発チームに対し、品質と開発期間の両面で影響を与えることがあります。特に、期末に間に合わせるために、開発スケジュールに過度な負荷がかかったり、あるいは早期に収益化を図るために、未完成な状態でのリリースを余儀なくされたりするリスクもあります。
完成度が低い状態でリリースするとユーザーから低評価を受ける可能性が高いので、ゲーム会社としては万全の状態でリリースすることを望んでいるはずです。それでも、金銭的な都合で万全とは言えない状態でリリースされるタイトルも存在します。
企業が短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点で開発を重視しているかどうかは、決算説明資料のメッセージや今後のロードマップからも判断できるので、自分自身が関係している会社や興味がある会社の決算書にはぜひ目を通してください。
まとめ
ゲーム会社の決算を読み解くことは、その会社の過去の成績だけでなく、将来的な戦略や開発への投資姿勢を把握することに役立ちます。
特に、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書という三つの資料のポイントを抑えることで、そのゲーム会社の収益構造や財務の健全性、現金の流れといった情報を得られます。
エンジニアを目指す人や転職を考える人にとって、決算関連の言葉や数字の意味は分かりにくいものが多いかもしれません。しかし、関連している企業の決算情報から「未来の成長性」と「開発環境」を読み取ることは、自身のキャリアパスを選択する上で大きな指針となります。そのためこの機会に、基本的な用語や概念だけでも理解しておくことをおすすめします。