物理エンジンとは?仕組み・種類・代表例・選び方までわかりやすく解説
2026年1月26日

近年のゲーム開発において、物理エンジンは欠かせないツールのひとつとなっています。しかし、物理エンジンについてまだあまり知識がないという方もいらっしゃるでしょう。
そこでこのコラムでは、ゲーム開発に使用する物理エンジンの定義や基礎知識を説明し、代表的な物理エンジンの紹介や学習方法の解説なども行います。このコラムを読むことで、物理エンジンの概念や仕組みを理解できるだけでなく、学習のステップを具体的に把握することが可能です。
物理エンジンとは
物理エンジンとは、質量、速度、摩擦、空気抵抗といった物理学的な法則を、コンピュータ上でリアルタイムに計算し、物体の挙動として再現・シミュレーションするためのミドルウェア(OSとアプリケーションをつなぐ中間的ソフトウェア)です。
物理エンジンを使用しない場合、物体が重力に従って落下したり、水が流れたりする挙動を把握するためには面倒な数式を用いなければなりません。しかし、物理エンジンにはさまざまな物理法則がライブラリ化されているため、ゲーム開発者は少ない手間でリアルな動作を把握・描画することができます。このライブラリは、ニュートン物理学に沿っているので、リアルで違和感のない仕上がりが可能です。
ほかにもゲーム内でキャラクターが投げた物体に放物線を描かせたり、長い髪が風になびくシーンを描いたりする際に、劇的に工数やかかる時間を削減できます。また、得られる画像も非常にリアルなので、リソースを押さえながら良質な成果を得られるツールとして、近年広く利用されるようになりました。
当コラムでは物理エンジンをゲームに利用する用途を中心に解説しますが、物理エンジンは映画やアニメなどの映像制作や、学術や産業に必要なシミュレーションにも広く用いられています。
物理演算と物理エンジンの違い
物理演算とは、物体に働く力や運動の軌跡を求めるための計算プロセスを指す言葉です。一方物理エンジンは、その物理演算を用いたシミュレーションを実現するミドルウェアです。
例えば、物体が移動して衝突する場面を描く場合、リアルさを求めるのであれば、その物体の運動を物理法則を踏まえてシミュレーションしなければなりません。移動だけならまだしも、衝突の衝撃やそれに伴って起こる破壊などを演算するのは容易ではありません。
物理エンジンは移動に関して摩擦の影響なども踏まえてくれますし、衝突時に力がどのように伝達されるかを瞬時にシミュレーションしてくれるため、ゲーム開発者は演算やシミュレーションにリソースを割く必要がありません。
つまり、物理演算は理論や計算そのものですが、物理エンジンは物理演算を効率的に扱うための仕組みと考えるとわかりやすいでしょう。
物理エンジンでできること
物理エンジンは物体の移動や衝突、破壊などをシミュレーションできる機能を備えています。前の項目で例に挙げた衝突を扱う場合、物体の硬度や摩擦を変数として入力できます。
鉄のような硬いものが衝突する場合と、ゴムボールのような柔らかく弾力性があるものが衝突する場合は挙動が全く異なりますが、物理エンジンがあればその違いを演算に基づいて表現できます。
また、長い髪が風になびく挙動を把握することは、ツールがなければ非常に困難ですが、物理エンジンなら容易です。髪は毛根側で固定されており、毛先側が動きますが、物理エンジンがあれば固定端と移動端を指定できますし、揺れる方向や度合いも制御できます。
さらに、液体や煙のような流体のシミュレーションや、爆発を描画することも可能ですし、物体の破壊を描くこともできます。
この項目で紹介したような動きを手書き2Dアニメーションで描く場合、職人的な個人のスキルが要求されますが、物理エンジンがあれば誰もが一定の成果を手早く得ることが可能です。
物理エンジンの基本的な仕組み
物理エンジンには人類が発見してきたさまざまな物理法則をもとにした数値シミュレーション機能が実装されています。その中で基本となるのは、衝突判定(コリジョン判定)の考え方です。
衝突判定は、シューティング要素を伴うゲームで言う「当たり判定」と同じ意味をもちますが、物理エンジンの解説においては「物体同士が重なっていることを判定する」と表現されることが多いです。これが根幹となるのは、射撃や打撃、剣撃が命中したあとの現象を描画する工程に移行できるからです(ダメージ算出は物理エンジンとは別のロジックで処理されます)。
また、ダメージを加えるときだけでなく、ラケットやバットなどでボールを打ち返すとき、地面を蹴ってジャンプするときなど、物理法則に沿って動作する場合も衝突判定の考え方が必要です。さらに、物体が衝突して破壊や飛散するときには衝突判定後の挙動を物理演算することになります。
より詳しくは、物体の形状(コライダー)の考え方、時間ステップと計算精度の関係性なども重要ですが、当コラムは学術書ではないので、これらの説明は割愛します。
物理エンジンが使われる主な分野

この項目では、物理エンジンが使用される主な分野を解説します。
ゲーム開発
近年のゲーム業界において、物理エンジンはプレイ体験の質を左右する大きな要素となっています。物理エンジンが登場する以前は、打撃やジャンプ、衝突後の挙動をリアルにシミュレーションすることは困難でした。しかし現代は物理エンジンを用いることにより、地形や物体の硬度などを踏まえたリアルなアクションが可能となりました。
例えば、射撃後に起こる物体の破壊や飛散、レースゲームにおける車体の挙動、スポーツ系のゲームでボールへの空気抵抗や重力、回転などを含めた物理演算などが、物理エンジンの導入によってリアルタイムで把握できるようになったのです。
CG・映像制作
映画やアニメーション制作の現場では、手作業でのアニメーションでは表現不可能な自然現象の描写に物理エンジンが活用されています。建築物の大規模な崩壊シーン、押し寄せる津波、キャラクターが身にまとう衣服の質感などがその代表例です。
映像制作向けの物理エンジンは、ゲーム用とは異なり、リアルタイム性よりも視覚的な正確さや説得力が重視されます。そのためオフラインレンダリングと呼ばれる手法を用い、1フレームの物理計算に数分から数時間をかけることも珍しくありません。これにより、実写と見分けがつかないほどのフォトリアルな物理表現が可能になります。
シミュレーション・研究分野
物理エンジンは、製造業や学術研究の場でも高く評価されています。自動車メーカーが新車の安全性を検証するために行う衝突シミュレーションや、建築業界における構造物の風洞実験などがその一例です。
また、二足歩行ロボットの開発において、実機を製作する前に仮想空間でAIを用いた歩行アルゴリズムを学習させることがありますが、この場面でも物理エンジンが活躍します。高精度な物理エンジンであれば、摩擦係数や重力加速度をシビアに反映させたシミュレーションが容易に実現できるからです。
代表的な物理エンジン・プラットフォーム
この項目では、物理エンジン・プラットフォームの代表的なものを紹介します。
ゲームエンジンに統合された物理エンジン
UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンには物理演算機能が統合されており、衝突判定や重力、力学シミュレーションなどが内蔵されています。以下で個別の特徴を紹介します。
Unity
Unityには、世界標準的な位置づけの物理エンジンであるPhysXが採用されています。これによってゲームエンジニアは、重力や摩擦を加味しながらリアルな物理挙動を、容易に実装できます。
近年のUnityにはデータ指向設計(DOTS)に基づいたUnity Physicsが標準装備されています。データ指向ベースの物理エンジンは、オブジェクト指向のタイプより低コストでありながら大規模なシミュレーションを伴うシーンにも適用できます。
Unreal Engine
Unreal Engineは過去には物理エンジンとしてPhysXを採用していましたが、Unreal Engine5からEpic Gamesが自社開発したChaos Physicsが標準装備されています。Chaosは、高性能な破壊シミュレーションや、髪や布などの軽い物体の複雑な挙動をリアルタイムで処理することを得意としています。
また、剛体力学を踏まえたアニメーションや乗り物の挙動、流体の動きなども容易に扱えるので、ゲーム開発のリソースを減らしながら、高度な成果を得ることに役立ちます。
スタンドアロン型の物理エンジン
スタンドアロン型の物理エンジンは、ゲームエンジンに依存せず独立して使えるライブラリで、シミュレーション用途に柔軟に組み込むことができます。以下に代表的な3種類のスタンドアロン型物理エンジンを紹介します。
PhysX
NVIDIAが開発するPhysXは、NVIDIA製のGPUを利用した高速演算を得意としています。これによって、煙や液体、大量の破片などのCPUに大きな負担をかける演算の高速処理が可能です。
またGPUソースコードもオープンソース化されているため、ゲームエンジンを独自開発するエンジニアにも広く利用されています。Unityに標準装備されていることもあり、業界標準的な立ち位置を獲得した物理エンジンです。
Bullet Physics
Bullet Physicsは、オープンソースで提供されている物理エンジンです。無料で利用可能な物理エンジンでありながら、剛体シミュレーションややわらかい物体の挙動把握に優れているうえに、複雑な形状の物体でも衝突判定精度が高いことなど性能的に非常に良好です。
動作が軽いメリットもあるため、映画制作やゲーム開発などのエンタメ分野だけでなく、産業分野でも広く利用されています。
Open Dynamics Engine(ODE)
ODEはRussell Smithが開発した物理エンジンで、衝突検知や剛体シミュレーションを得意としています。構造がシンプルなこと、オープンソース化されていること、軽量なこと、歴史が長いことなどからアカデミックな分野やロボティクス分野でも広く利用されています。
視覚表現を派手に求める映画などにはあまり使用されませんが、ソースコードが読みやすいこと、リアルタイムシミュレーションに適していることなどから、ゲーム開発者にも好評です。
物理エンジンの使い方を学ぶ方法

この項目では、物理エンジンの使い方を学習する方法を複数紹介します。
書籍や動画による独学
物理エンジンの基礎や使い方を解説した書籍やサイトは多数存在するので、独学による学習もひとつの方法です。独学を選ぶメリットは、費用があまりかからないこと、出かける必要がないので時間の有効利用ができること、自分のペースで学習を進められることなど多数存在します。
ただし、学習に行き詰まったときの解決がしにくいことや体系的な知識が得にくいこと、モチベーションの維持が重要なことなど、デメリットもあるため「費用をかけられないが物理エンジンを使いこなせるようになりたい」といった意志が明確な人におすすめの選択肢です。
専門学校・通信講座
物理エンジンの知識やスキルを教える専門学校や通信講座なら、費用は掛かりますが、お金を取って教える以上カリキュラムが用意されているので体系的な学びを得られるメリットがあります。また、わからないことを質問できたり、つまずきやすい箇所に注意を促したりしてもらえるので、時間や費用をかけても一定の知識やスキルを身につけたい人におすすめです。
専門学校であれば終業後の就職を斡旋してくれるところもあるので、転職・就職を目指して物理エンジンを学びたい人は、その点も事前にチェックしましょう。
UnityやUnreal Engineなどの大手が扱っているエンジンはセミナーも多数あるので 、用途やレベルに合ったものを探してみてください。
実際にゲームエンジンを触ってゲームを作ってみる
実際にゲームエンジンに触れて、ゲームを作ってみると多数の学びが得られます。業界標準的なゲームエンジンであるUnityとUnreal Engineは個人で収益を求めない範囲なら無料で利用できますし、Web上に利用方法は多数存在するので、取り掛かるハードルは高くありません。
実践的な使用経験があれば、就職や転職でもアピールできますから、ぜひこの機会にトライしてみてください。
まとめ
物理エンジンは、ゲームエンジニアにとって物理法則に沿ったシミュレーションを、少ないリソースで得ることに役立つミドルウェアです。
当たり判定や衝突後の挙動、流体のシミュレーションなど利用できる場面が多く、UnityとUnreal Engineなどの一般的なゲームエンジンにも標準装備されているので、物理エンジンの使用はもはや一般化しています。そのため、まだ使ったことがない人や使用経験はあるが自信がない、といった人はぜひこのコラムを参照しながら、物理エンジンに触れてみることをおすすめします。