「ゲームのシリーズ化」にはどういったメリットがある?マーケティング上のポイント
2026年2月26日

ゲーム業界において、一つのタイトルをシリーズ化する戦略は、収益の安定化とブランド構築の両面で極めて重要な役割を果たします。
当コラムでは、シリーズ化がもたらす集客上のメリットや開発効率の向上、一方で懸念されるユーザーの「シリーズ疲れ」といったリスクを詳しく解説します。記事を読み進めることで、マーケティング視点でのIP(知的財産)運用の重要性と、新規IP創出との適切なバランスの取り方を理解できます。
ゲームタイトルの「シリーズ化」とは
ゲーム業界における「シリーズ化」とは、タイトル名や世界観が関連するタイトルを継続してリリースしていくことを指します。シリーズ化は自社IPを強化し、継続的な利益を見込めるため、ゲーム会社やクリエイターにとって大きなメリットとなります。
シリーズ化する場合、主として以下のような形態があります。
【ナンバリング】
最初にリリースされた作品を『1』として、『2』、『3』、『4』といった具合に数字を重ねていく形態です。ただし、シリーズ化されてから『1』より前の時系列を描く『0』をリリースしたり、『1』と『2』がストーリー的にまったく関連がなかったりすることもあります。
【スピンオフ】
ヒットタイトルのサブキャラクターや特定の世界観、舞台などを抽出して開発する場合を指します。RPGからアクションやパズルなど、ジャンルが異なることもあります。
【リマスター】
リマスターとは過去タイトルの映像や音響、解像度などを新しい技術で向上させてリリースすることを指します。もとのストーリーや演出は同じ場合がほとんどですが、新たな要素を付加してリリースされることもあります。
シリーズの主な継承要素
ゲームがシリーズ化される場合、キャラクターや世界観などが継承されることが多いです。
たとえばキャラクターやストーリーが人気のタイトルなら、ヒットした第1作に登場したキャラクターを再登場させたり、キャラクターは変えても世界観を引き継いだりするケースが一般的です。
一方、ゲームのシステムや特長がシリーズ化されることもあります。たとえばコーエーテクモが得意とする「無双シリーズ」はその代表的な例でしょう。
上記の要素はブランドの「核」となるので、ユーザーにも目に見える形で継承されます。一方で、UIなどを含めた操作感や課金設計などユーザーが気づきにくい要素も、開発者側が意図的に継承することが多いです。操作時や課金時のストレスが少ないことは、ゲームのヒットにおいて非常に重要だからです。
また、長期的にユーザー離れを防ぐためには、コミュニティが継承されることも重要です。
しかし一方で、継承されない要素もあります。
ゲームを取り巻く環境の変化は速いので、技術的要素やプラットフォームが変更されることが多いですし、市場の要求を踏まえてジャンルが変更されることは珍しくありません。さらに初代タイトルが安価なものの場合、シリーズ化によるブランディングが進んで価格帯をあげることも考えられます。
また、コナミがリリースしているホラーゲーム『SILENT HILL(サイレントヒル)』シリーズは、過去にはCERO C(15歳以上)にレーティングされていましたが、『SILENT HILL f』はCERO Z(18歳以上)に分類されました。これはホラー描写が強化され、対象年齢が上がったためです。
代表的なゲームシリーズ
以下に、日本発で世界的に知られるシリーズの名称と概要を解説します。
【ドラゴンクエスト】
エニックス(現スクウェア・エニックス)が1986年にリリースしたタイトルで、日本におけるRPGの草分け的存在です。鳥山明氏によるキャラクターデザインや多様なストーリーなどが評価され、世界中に広がりました。
【ファイナルファンタジー】
1987年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からリリースされ、壮大な王道ファンタジーやジョブシステムで人気を獲得しました。続編ごとに世界観を一新しているので、長く続くシリーズではありながらナンバリング途中でも新規参入しやすい特徴をもっています。
【ポケットモンスター】
ポケモンシリーズの初代は、1996年にゲームボーイ向けのソフトとしてリリースされた『ポケットモンスター赤・緑』です。現在のようにインターネット環境が整っていない時代に、通信によって他者と楽しみを共有できるシステムは画期的でした。また数多くの魅力的なポケモンが存在すること、アニメでも大ヒットしたことなどでシリーズ化を果たし、今では世界中に知られるIPとなっています。
【モンスターハンター】
カプコンが2004年に初代タイトルをリリースし、巨大な敵を協力して倒すマルチプレイ体験が人気となったことでシリーズ化されました。ワイルドな世界観や装備を整えていく面白さ、多様な武器に由来する戦闘スタイルの豊富さなどが魅力です。
【バイオハザード】
カプコンが1996年に1作目をリリースし、サバイバルホラーの概念を確立してシリーズ化を果たしました。それ以前にもホラーゲームは多数存在していましたが、本作はリアルな恐怖体験が個性的でした。ハリウッド映画のヒットもあり、世界に知られるシリーズとなっています。
ゲーム会社がゲームタイトルのシリーズ化を選ぶ理由

多くのゲーム会社がシリーズ化を選択するのは、ビジネスモデルとしてのメリットが多数あるからです。以下でその理由を4つの視点から解説します。
既存ファンが購入する可能性が高くCAC(獲得コスト)を下げやすいから
新たなタイトルを開発する場合、ゲーム会社は市場調査やニーズの分析などを行いますが、それでもその新規タイトルがヒットするとは限りません。大きな費用や多大な時間を使っても、予想した利益が上がらないケースも少なからず見られます。
一方で既存のタイトルであれば、そもそも認知度が高いメリットがあります。すでにある程度のファン層が存在する場合、CAC(顧客獲得にかかるコスト)を下げやすいのです。
ユーザーのファン化やコミュニティ基盤が強化されやすいから
シリーズ化が進むと、シリーズそのもののファンが増えます。過去作を楽しんだ人ならシリーズ新作の話題に敏感になりますから、SNSなどで議論されることも増えるでしょう。
また、シリーズ化されている場合、シリーズのどれが好きか、といった対話も自然に生まれます。そうしてコミュニティが活発化すれば、シリーズから離れていた人が復帰する可能性も上がります。すると作品間での回遊も起こり、マーケティング上の好循環が生まれるなど、メリットが豊富です。
売上のブレが新規IPよりも抑えられるため予算などを確保しやすいから
近年はゲーム開発費が高騰しています。そのため野心的な企画を立てても、そもそも予算を獲得できずにボツになる企画も多数存在します。
その点、過去作でヒットした実績がある場合、売上や利益のブレを抑えやすいメリットがあります。そのため経営層やスポンサーも投資回収の見通しを立てやすく、開発に着手しやすいのです。
開発生産性が上がるから
シリーズ化すると、クリエイターやエンジニアも仕事をしやすいというメリットがあります。関連作品であれば、過去作のアセットやエンジンが利用できるケースがあり、作業の効率化が期待できます。また、キャラクターやアイテム、背景、UIなどのデザインに関してもゼロから考えるよりも効率的に制作できます。
ただし、使いまわし感があるとユーザーがガッカリしてブランドイメージを下げる可能性もあるため、流用の度合いには注意が必要です。
ゲームタイトルシリーズ化のデメリット
シリーズ化はマーケティング上有効な面がありますが、デメリットも存在します。ここではシリーズ化に当たって注意すべき点を解説します。
期待値が積み上がっているため作品の出来によっては批判の対象になりやすい
シリーズ化されるタイトルは、基本的に1作目がヒットしていることを前提とします。そのためユーザーの期待値が高く、続編の出来次第では「期待はずれ」「前作の方が良かった」といった批判を受けるケースも少なからず見られます。
比較対象がある以上、すべての批判を回避するのは不可能です。そのため開発者は、シリーズ化に当たって過去作をどの程度継承し、どの程度新しくするかという選択を迫られます。
これについては必ずうまくいく方法論はないので、シリーズ化に当たっての方針をしっかり定めることが重要です。
ユーザーのブランド疲労(シリーズ疲れ)を生む可能性がある
シリーズ化が進むと、ユーザーが飽きてくる可能性があります。たとえばストーリーやキャラクター中心のシリーズの場合、過去作の縛りがあることから大胆な発想はしにくくなるため、既視感が出やすいのです。
また、アクションやパズルなどそもそもプレイ時の感覚的な要素が強いタイトルの場合、より強い快感を与え続けることは困難です。
このような経緯から、ユーザーとしては「過去作は楽しんだけど、もう新作はプレイする気にならない」とシリーズから離れてしまう可能性があります。
新規ユーザーにとって入りづらいハードルとなる可能性がある
たとえば10作もナンバリングタイトルがある場合、新規ユーザーが尻込みすることは容易に想像できます。長く続いているシリーズに対して、新規ユーザーが「1作目から追っていくのは大変」、「途中から入って楽しめるだろうか?」、「古参プレイヤーが多いコミュニティには入りづらい」といった感覚を持つのは無理のないことです。
これを抑えるには、過去作をプレイしていなくても楽しめる工夫や、「今作から入っても楽しめる」ということを大々的にPRしなければなりません。
内容の使いまわし感が出ると利益至上主義の印象を持たれる可能性がある
ゲーム会社としては、シリーズ作品は過去のアセットが使えることをメリットとしているため、どうしても使いまわしの部分は発生します。しかしその点が目立つと、ユーザーから「手抜き」「利益至上主義」と批判されるリスクがあります。
ファン層から見る会社の信用問題にも発展するため、「シリーズモノだけの会社」と思われないようなマーケティングが大事になってきます。
「ゲームタイトルをシリーズ化しない」選択肢とは?

ゲームのシリーズ化に成功すれば、企業としての収益を見込みやすくなるという大きなメリットがあります。しかし「ゲームタイトルシリーズ化のデメリット」の項目で記載したように、長く続くシリーズが疲弊することは珍しくありません。そのため、シリーズ化だけに執着することは企業としてリスクを伴います。これを踏まえて、シリーズ化や既存IP育成と並行して新規IPを生み出すことが重要です。
たとえばブシロードは、IP育成に対して以下のような戦略を立てています。
・時代のニーズ分析を重視し、自社IPの育成に注力 → 「カードファイト!!ヴァンガード」「バンドリ!」などの代表的IP育成に成功
・メディアミックスやプロモーションミックスを自社主導して、既存IPをさらに成長させた
・IP活用プラットフォームを構築して他者IPの育成にも関与、Win-Winの関係で利益向上
また、KADOKAWAとソニーグループは2024年12月に、「新規IPの創出・開発・取得」と「IPのグローバル流通の強化」というふたつの目標を掲げて資本業務提携を行い、497億円の資金調達を実施しました。
規模感としては業界大手企業だからこそ実現できるものですが、新規IP創出の重要性を認識する意味で、重要な事例といえるでしょう。
これらの事例から、シリーズは“収益の柱”、新規は“未来の柱”という役割分担を意識していくことが望ましいでしょう。
シリーズタイトルの陰で新規IPを不発に終わらせないための意識
シリーズ化した既存IPを成長させつつ、新規IPを生み出すには、予算配分をルール化して新規IP開発費を維持することをおすすめします。
また、新規IPに対するKPI(重要業績評価指標)をシリーズタイトルと同じ水準にせず、短期的な判断だけに偏らないことも明文化すべきです。そのうえで、新規IPをシリーズ化する基準を明確化(ファン形成、世界観拡張余地など)することを推奨します。
また、判断のばらつきを防ぐこと、担当者に方向性を示すことなどを重視して、企業としての指針を明確にしましょう。
まとめ
ゲームタイトルのシリーズ化は、企業の持続可能性を支える重要な要素です。シリーズ化に成功すれば、顧客獲得コストの低減やコミュニティの強化、収益の安定化などのメリットが得られます。
しかし、シリーズのみに依存した体制ではユーザーに飽きられるリスクがあり、シリーズが疲弊したときに事業が立ち行かなくなるリスクもあります。
そのため、長期的にゲーム開発を行っていくうえでは、シリーズ作品による安定した収益を確保しつつ、その利益の一部を新規IPに向けていく循環が不可欠です。